〔参〕それぞれの風
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
──夜。
盛大な歓迎会、改め、大宴会が催された後、夜の巡回の人達以外は眠りこけてしまった。
お酒が飲めない私は、──それでも雰囲気に触発されて気分が高揚してしまったのか、火照った体を冷ます為に── 一人大広間から出ると、縁側に腰かけた。
風鈴が ちりん と鳴った。今はもう冬なのに、この時期まで忘れ去られた風鈴が、それでも凛とした音色をたてた。
そしてそれによって 初めて、微かな風が吹いている事を知る。
「‥良い風」
“日本”の香りがした。
静寂に、すっ‥ という襖の開く音が響いて、私はそちらの方を見遣った。
「「あ」」
昼間の赤髪の少年だった。
確か、土方さんのお小姓さん。
彼も私と同様、酒が飲めない仲間なのだろうか。
「えっと‥市村君、だっけ」
「あ、うん」
どうぞ、と言って私の座っている隣を示すと、市村君は素直に腰を下ろした。
「“鉄之助”で良いよ」
「鉄之助、君?」
「おう。まぁ“君”も要らないけどな。えーっと、春華?よろしく!」
何の躊躇いもなく差し伸べられた手に、釣られるかのように私も素直に手を伸ばし、握り返す。そのとても開かれた心に、まだ出会ったばかりだというのに、打ち解けてしまった気持ちにさせられる。面白い少年。
──市村鉄之助、か。良い名前。
‥でも何だろう、やっぱり先刻感じたように、何かが引っ掛かる。目の前の少年には、初めて会ったはずなのに。
「どうかした?」
そう伺いながら顔を覗いてくる仕草が、可愛らしく見えてしまった。(身長は私より大きいはずなのにね)
「あ、ううん。何でもないよ」
「?そうか」
「うん。‥あ、そういえば鉄之助君ーーえーっと、鉄之助って――」
何歳?と聞こうとした時、唐突に 鮮明に記憶が蘇った。
<div align="center">ー ー ー ー ー ー
『ちっくと頼みがあるぜよ』
ー ー ー ー ー ー</div>
──そうだ、思い出した。記憶が、繋がった。
「市村‥鉄之助。‥鉄‥‥iron boy‥」
「え?」
そうだ。“iron boy”。
「龍馬さんが言ってた、貴方が“市村鉄之助”‥!」
「!?」
+