〔参〕それぞれの風
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色んな人と
色んな場所で
一つの時代に出逢う
それは“今”まで
何千年も繰り返されてきた
一つの“奇跡”
そんな一つの
素敵な“奇跡”を感じつつ
更に
出逢った人々全員に
沢山の“幸せ”を願うのは
贅沢でしょうか
《それぞれの風》
美しくて、柔らかくて、儚い。
これが“彼”の第一印象。
「──屯所には珍しい可愛らしいお客さんですね、山崎サン」
彼は陽気に、ふんわりとした口調で話した。先程までは刀を振るっていたから、その反動で、とても心地良い声に安心した。
「捕り物見事でした、沖田さん。 ‥この方は近藤局長と土方副長の客人で‥」
“沖田さん”に気を取られていたら、山崎君が私の脇腹を肘でつついてきた。ハッと私に話を振ってきている事に気付いて、慌てて背筋を伸ばした。
「あっ、はっ初めまして‥!相内春華と申します!」
慌てて頭を下げて、そのままの勢いで顔を上げると、優しい瞳と再び目が合った。
吸い込まれるように澄んだ瞳を細めた彼に、思わず赤面した。
「春華さん、ですか。──初めまして、私は沖田総司と申します」
そう言って、沖田さんはより一層にっこりと笑った。
この時私に向けられた笑顔が、彼の全てを語っていたような気がする。
温かくて、柔らかい。穏やかな 彼。
「あ、そうだ。山崎サン、つい先刻松本先生がお見えになったようですよ」
沖田さんは山崎君の方を見遣ると、そう報告した。
「そうそう、今回のお土産は“子豚”だそうです」
さらに沖田さんがそう付け加えると──何処から入り込んだのか、小さな豚が沖田さんのお腹を目掛けて突進してきた。
「ごふっ‥。
‥おや、サイゾーどこに行ってたんです?」
飼い豚‥なのだろうか。沖田さんは攻撃を喰らったお腹を押さえつつ、その豚のことを“サイゾー”と呼んだ。
心なしかサイゾーは小さく震えているように見えた。
「山崎サンにご不在の間の経過を聞きたいそうですよ」
「そう‥ですか」
山崎君はちらりと私の方を横目で見た。その様子から、私に遠慮しているのだという事が伺えて、慌てて私は笑顔を返す。
「私のことはお気になさらず!大丈夫です!」
「そうか‥?」
「えぇ。ご案内ありがとうございました!」
少し申し訳なさそうな表情をしつつ(とにかく彼は表情が少ない)、山崎君は沖田さんに軽く会釈をしてから駆けていった。
遠ざかる背中を見送っていると、微かに着物の裾が引っ張られるのを感じて、視線を落としてみた。
「ブキキ、ブキ」
桜色の 可愛らしい‥‥とは掛け離れているけど、何所か憎めない顔の豚が裾を引っ張っていた。
「こらこら、サイゾー」
そう言って沖田さんはサイゾーをひょいと持ち上げた。
「珍しい着物だから気になるんでしょうね」
そう言う沖田さん自身も気になっているのか、私の着物をまじまじと見ている。
──あまりまじまじと見られてしまうと、居たたまれなくなってしまう
「あ、えっと、つい先日英国の留学から帰ってきたもので‥‥きちんとした着物の調達が出来ずですね‥‥」
恥ずかしさで縮こまってしまう。
本当にこれは失敗だったと思う。京の町を歩くにも人目が痛かった程だ。
「! 英国!」
滅多に聞かない外国の名に驚いたように、でもどこか感心したように沖田さんは言った。
「はい。西洋の医学を学びに行っておりました。ご縁があって、これからこちらで働かせて頂くことになりました」
宜しくお願いします、と言いながら 改めてお辞儀をすると、沖田さんはまた優しい笑顔を向けてくれた。
「いやー、むしろ怪我が日常茶飯事の私達の方がお世話になると思いますし‥こちらこそ、これから宜しくお願いしますね、春華さん」
そう言って無邪気に笑う沖田さんの笑顔は、とても眩しかった。
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