世界が白に染まる日
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少しだけ体は冷えていた。でも、この胸は温かくて 何にも苦ではなかった。
それでも、ほう、と微かに吐いた吐息が白く、あぁ やっぱり寒いんだ、と他人事のように気付く。
少しだけ待ち遠しくなって、入り口を見やれば──姿を見せた愛しい人。仄かに濡れた髪が一層彼女の色香を引き立てて、紅潮した頬は狂おしいほどに可愛らしい。
ほら、一気に寒さなんて吹き飛んだ。
「え‥っ 沖田さん‥!?」
怒るかな。怒るだろうな。
そんな事を考えつつ、それでもいいか、と少しだけ笑った。
「長くなるから先に帰っててって言ったのに‥!!」
やっぱり、怒られた。
でも、滲む彼女の優しさに笑みが零れる。
「私もちょうど長風呂だっただけですよ」
嘘も方便、ということで。だって 湯上がりの貴女を一人で帰せる訳がない。
寒さで紅潮したこの頬は、湯上がりで火照っているからだと見えればいいのだけれど。
「──‥沖田さん」
「はい?」
少し間があって、とっても素敵な笑顔で名前を呼ぶものだから、思わず笑顔で返す。と、むんずと掴まれる手。
しまった‥。
「手、冷たいじゃないですか!」
「え、えへへ」
何で貴女には分かってしまうのかな。
笑って誤魔化すと、貴女は風呂あがりで火照った頬を更に赤くした。
怒った顔も可愛いな、なんて 不謹慎ながら思った。
「もう! すっかり冷えてるじゃないですか」
「あははっ、ごめんなさい。──ほら、冷たいですからもう手を離して‥」
そう言って彼女の手をやんわりと解こうとしたら、一層強く握られた手のひら。
軽く驚いて顔を見やれば、怒っていた表情はいくらか和らいでいた。
「ダ・メ です」
「へ?」
繋いだ手を離さずに、それどころかしっかりと握って、貴女は私の手を引いて 少し早足で歩き出した。
「私の我が儘も聞いてもらいますよ」
「えっ?」
聞き返せば、振り返り悪戯っぽく笑顔を見せる貴女。
そんな、不意打ちだ。
ドキッと 心臓が跳ねた。
「繋いでいれば温かくなるでしょう?」
そう行って、照れくささを誤魔化すように笑う。
あぁ、もう。
いつもは余裕なフリをしていることに気づいて欲しい。
本当は 貴女の隣で余裕を感じる暇なんてないんだから。
貴女から繋がれた手に全神経が注がれて、浮かれた頭は貴女の笑顔で一杯。
寒さで紅潮した頬は、逆上せたように赤みを増して。耳まで熱くなってしまった。
溢れ出すくすぐったい気持ちが堪えきれなくなって、隠すように空いている方の手を口元にあてがえば、不思議そうに見上げてくる貴女と目があった。
「沖田さん、顔真っ赤」
「‥ゆ、雪が降る程寒いですからね」
そういうことに、しておく。
隣の貴女の顔だって、湯上がりとか寒さとかじゃなくて 私と同じように赤いから。
お相子ということで。
白い世界の中。繋がれた手が仄かに温かくなって、私達はお互いの熱を感じながら 二組の足跡の道を作りながら――ゆっくりと歩いていった。
世界が白に染まる日
(繋がれた手のひら)
(熱を帯びた頬)
(貴女/貴方への想いを再認識した)
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