Please be my valentine.
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それは
貴い方が尊い命を掛けたことから始まった
年に一度
恋する人が素直になれる尊い日
「はっぴー 婆恋多陰図泥です!」
「はっ!?」
【Please be my valentine】
場所は京の町通りの真っ只中。向き合う二人の剣士。一人は私。そして相手は袴に洋靴、洋帽子、洋眼鏡に意味不明な髪型というふざけた格好。さらに言うなら左手には餡蜜の皿が乗っている。
しかも私が狙っていた期間限定のヤツ。(完売)
思わず笑みが零れた。
「ふふふ‥相変わらず良い度胸してますねリョーマさん」
「黒い黒い!!笑顔が究極に黒いぜよオッキーっ!!」
大袈裟に騒ぐ“獲物”をジリジリと追い詰める。なんてったって期間限定の餡み‥‥じゃなくて、お尋ね者の坂本龍馬。逃がしはしない。
食べ物の恨みを晴ら‥‥じゃなくて、新撰組として要注意人物を捕らえようと刀を抜けば、苦笑したリョーマさんはスッと愛用の“短銃”に右手を添えた。
ピクリと構えた刀の先が反応する。
──アイツはタチが悪い。
少しだけ私の動作が停止したのをリョーマさんは見逃さなかった。
強く踏み切って、一気に間合いを詰めてきた。
「‥チッ」
一発ぐらい食らうのは覚悟して此方も飛び込めば、首筋に冷たい鉄の感覚。──そっちの首筋にも刀を宛行ってるからお相子なんだけど。
「‥‥よぉーしオッキー! 取り引きじゃあ」
「‥取り引き?」
お互いブツを引っ込めることなく譲らない。どちらかが動いたら負けだと分かっているから。
緊張した空気の中、空気を読まずにリョーマさんは暢気な喋りを続けた。
「いえす いえ~す。儂がおんしにベリーベリー有利な情報を教える代わりに、おんしは一寸だけ目を瞑る。‥オッキーには悪くない話だと思うきの」
私に有利な情報? 新撰組にとって有利な情報ということか? それなら応じないこともない‥。いや、しかし坂本龍馬ともあろう要注意人物だ。逃す手はない‥。
「‥情報の概要を聞きましょうか」
そうだ。情報の内容による。此処は冷静な判断が必要だ。うんうん。よし、冷静に。冷静に──
「春華のハーツをゲッチューする恋のアタック方法じゃ! しかも今日限定」
「‥は?」
な、何だ‥!? エゲレス語を使って私の思考を錯乱させる寸法だろうか‥!?
いやいや、その手には乗らない。断じて乗らないぞ。断じて貴方の手には‥
「つまり、春華の心を射抜く必勝法っちゅーことじゃ。しかも今日限定」
「教えて下さい!!」
男同士の熱い握手が交わされた。
― ― ― ―
「──ということで、リョーマさんに教わって来ました」
(「完璧策略に引っかかってるじゃないですか‥っ!!」)
満面の笑みで嬉しそうに話す沖田さんに心の中で激しくツッコミを入れた。
「‥えっと? それで、結局‥」
「これを、貴方に」
差し出されたのは一輪の花。桃色で、とても可愛らしかった。
「今日は想い人に心を込めて贈り物をする日だと聞きました」
そうでしょう?とでも言いたげに目線を合わせて笑む。
にっこり。まさにそんな効果音がよく似合いそうな満面の笑み。
あぁもう。それを真っ正面から食らう私の身にもなって下さいよ‥!
沖田さんの無邪気な笑顔に当てられて、私の頬は熱を帯び 心臓は今にも壊れそう。
「はいっ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます‥」
可愛らしい花を受け取ると、ふんわりと柔らかい香りが鼻を掠めた。
「そっか、今日は如月の十日余り四日ですもんね」
「はい!はっぴー婆恋多陰図泥です!」
「ってそんな禍禍しそうな日じゃないですからっ!!」
「?」
キョトンとする沖田さん。
──駄目だ、やっぱり私はこの人に弱い。
コホン、と咳払いすると、気を取り直して沖田さんの方を向いた。
「いいですか、正しい発音は“Happy valentine's day”です」
「“Happy valentine's day”?」
「って相変わらず発音良いですね」
透き通るようなテノールで滑らかな発音。こんな声で耳元で囁かれたら女なら誰しもイチコロだろうな。
「春華さん 春華さん」
「はい?」
「Happy valentine's day. I love you」
‥イチコロになったのは私でした。
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