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昼下がり。
私が門前の掃除をしようとすると、彼はいつものように任務を遂行して帰ってきます。
そして身に合わない丈の箒を持っている私の姿を見つけて、目を細め、
『只今帰りました』
必ず言うのです。
私が“此処”に勤め始めてからというもの、幾日も繰り返されてきました。幾度もその言葉を聞きました。
流石に疑問も湧いてきます。
「え?“何故”、ですって?」
ある日率直にお聞きしました。“只今帰りました”を仰った折にむんずと捕まえて。
「はい」
「うーんと、そうですねぇ‥──」
沖田さんは言葉を探しているのか、視線を少し上に泳がせた。
「“ただいま”の対象って、“家”なんでしょうか?」
「は?」
何か言葉を探し当てたような表情で私の方に向き直ったと思ったら、そんな事を言い始めた。
私が質問しているのに、何故質問で返すのか。
私は間抜けな声をあげてしまった。
「私は、“帰る場所”に掛ける言葉だと思うのです」
「‥それは、そうでしょうね」
そりゃあ、そうでしょうとも。
返答に困っていると、私の表情を見遣った沖田さんは クスリと目を細めて笑った。
「それが“家”という場所であれ、“帰り着きたい人”であれ、ね」
真っ直ぐ見つめてくる沖田さんの瞳が、私の眼を射止めて、思考能力が麻痺させられた。
(まるで罌粟の実)
「私は“鬼”です。人を斬ります。だから『愛してる』をいう権利もありません。」
けれど、と切り換えて、沖田さんは視線を逸らした。
「私は“人”です。弱い“人間”です。だから“その元に帰れる存在”が欲しいのです」
だから、と弱々しく呟いて、沖田さんは不器用に笑って 此方を見た。
「『ただいま』が私にとっての最高の気持ちと言葉なのです」
つまり、えぇっと‥。
罌粟の実で麻痺された頭を全力活動させるけれど、答えがなかなか割り出せない。
「‥つまり、」
「つまり?」
「つまり、そういうこと、ですか‥?」
「そういうこと、です」
あまりに美味な罌粟の実は、効果が強すぎて、目眩がした。
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