過ぎ去ったモノ、生きている瞬間、未だ来ぬ日。
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「‥ごめんなさい。ちょっとやりすぎた」
水に浸した手拭いを俺の額に乗せると、総司は隣に腰掛けた。
「良いんだよ。これで。‥良かった」
「‥‥M?」
「バカ」
手拭いを総司目掛けて投げると、総司は少し笑ってそれを受け止めた。
「あー‥くそっ。一本しか返せなかった」
「そんなパッと出のヤツに負ける訳にはいかないでしょ」
クスリと笑うと、再度総司は俺の額に手拭いを乗せた。
「‥あーあ‥」
“突き”を喰らった瞬間。今までどうやって生きていたのか疑ってしまうほど、血が巡るのを感じた。
張り裂けそうな心臓。
負けたくない、と体中が叫んでいたんだ。
「‥‥生きてる、って 感じたんだ。きっと」
「‥‥‥」
「すごく、感じた。
──生きてるのって‥」
凄いのな、と呟いて 顔を腕で隠した。
「前は気付かなかった。先ばっかり追い掛けて、過去とか全部捨てて、“今”が見えなくて‥」
“以前”を否定する訳では、決してないけれど。
「──過ぎ去ったモノと、未だ来ぬ日、そして 生きている瞬間‥‥。これら全部で、“俺”なのにな」
気付いたんだ。そんな当たり前の事に。
そして、忘れかけてた。
「生きてるってこと」
体中が緊張感でピリピリして、自分が纏っている空気の存在を知る。
鼓動が耳に張り付きそうになって、血の巡りを知る。
深呼吸をすれば、生きていることを、実感する。
長閑な日々の中で、生きる意味をただひたすら追い求める生活の中で、忘れかけていた、純粋なモノ。
生きているっていう、感覚。
生きているっていう、こと。
耳を澄まして、鼓動を聴くと、瞼の裏が熱くなった。
襲い来る吐き気は、過去。
張り裂けそうな鼓動は、今。
見据える先は、未来。
「なぁ、総司」
「はい?」
「俺、剣道やる」
顔を隠していた腕を退かすと、目の前に空が広がった。
「過去がどうとかじゃない。未来も過去も全部ひっくるめて、今の俺が、やりたいと思うから」
青く澄み渡った空。掌を翳すと、赤く、生命のイロ。
「そしたらさ、一緒に日本一狙おう」
「え?」
「もう一度、日本一を」
今度は、スポーツ、だけどね。小さく笑う。
「こっちに来いよ。高校」
「‥んー」
「人は、集まれば引力が生まれるから」
“あのコ”にも、出会える気がするんだ。
内緒話のように呟けば、総司の顔に 笑みが零れた。
天高く拳を突き上げ、深く深呼吸。
「行くぞーー!“今”を‥!!────」
生きるんだ。
叫んだ言葉は、蒼天の向こうへと溶けていった。
【過去、今、未来】-END