『星に願いを』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、沖田さん沖田さん!」
あの後暫く(一刻程)沖田さんと和菓子の食べ比べをしていたら、烝にバレて二人して叱られてしまった。
追い出された沖田さんと再会したのは、仕事も終わり大分日が暮れてからだった。
「あ、春華さんお疲れ様です!」
にっこり笑って労いの言葉を掛けてくれた沖田さんの元へ少し駆け足で走り寄る。
すると、“さっきは山崎さん怖かったですね”と沖田さんが耳打ちしてくるものだから、思わず笑ってしまった。
「大分賑やかになりましたね」
屯所の一角にいる私達の前にあるのは、見るからに負担をかけられている“笹”。
既に殆どの隊士が笹に短冊を掛けたらしく、笹は色とりどりに飾られていた。
皆どんな願い事を書いたのかな、と思って幾つかの短冊に目を通してみる。けれど。ぴたりと動きが止まる。
「‥‥これって、願い事‥──」
「じゃないですよ」
私の言葉を繋ぐように言うと、可笑しそうに沖田さんは続けた。
「七夕しようって話になった時に、土方さんが『願い事なんて温いこと言ってんじゃねぇ』って一言。だから皆抱負とか意気込み書く事になっちゃいました」
だからか、と納得。だって明らかに『願い事』なんて感じじゃない。
赤い短冊に豪快な字
『獅子奮迅』
「‥佐之さんですね」
「ええ。この豪快な字と内容はまさしく」
薄藤色の短冊に丁寧な字
『日々精進』
「あ!永倉さんの短冊ですよ、きっと」
「なんだか真面目な永倉さんらしいですねー」
橙色の短冊に幼い雑な字
『一日一寸』
「‥‥鉄クン?」
「抱負というより願い事に近い気が‥」
薄水色の短冊に貧弱な字
『胃腸回復』
「‥‥‥」
「‥‥‥」
一通り見終わると、なんとなく胸が温かくなった。
名前は書いていないのに、一つ一つ誰が書いたのかが分かってしまったから。
短冊の色の選択から始まり、字の雰囲気、抱負の内容。その中にその人の性格や個性が溢れていた。
そして、それぞれの決意───
「‥あれ? これは誰の短冊ですか?」
上の方に高々と掲げられている短冊を見つけて、目を凝らしてみた。風に揺られているけれど、少しずつなら読めそうだ。
「ふふ‥ 何て書いてあるか読めますー?」
「? はい、揺れて少し読みづらいですけど」
「じゃあゆっくり大きな声で読んでみて下さい!」
ものっ凄く悪戯心満開そうに沖田さんは笑っているもんだから、私は少し訝しみながらも、好奇心に負けて 言われた通りにしてみた。
「えぇっと‥、『しれば迷‥い、しなー‥ければ 迷わぬ‥、恋のー‥「総司ぃぃいぃぃ!!!」」
鬼が、出た。
「ぉぉおいこらてめぇ総司今日という今日は許さねぇぞコルァァ!!!」
ぶっ壊れた土方さんが姿を現すと、沖田さんは素早く逃げの大勢に入った。
「では春華さんまた後ほど宴会で会いましょう!」
早口に言い切ると、沖田さんは(どこから取り出したのか)馬に跨り颯爽と駆けていった。
「待てコルァ総司ぃぃい!!!」
「きゃー!!」
「きゃぁじゃねぇ!!」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃないですかぁ!渾身の一作を皆に見てもらいましょうよ~」
「だから笑いながら言うなぁ!!!」
「というか、私を追い掛ける前に短冊外した方がいいんじゃないですかぁ?」
「!!!!」
「まぁでも予備はいくらでもここに‥───」
とうとう姿が見えなくなって、二人の声は境内の向こうに消えていった。
+