君と、ここで
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花の乙女だって恋心が原動力だったら酒樽だろうと 全力でやれば転がして運ぶ事なんて苦でもない訳で。私は物凄い勢いで樽を転がしていった。
だって、あの人が────
「お待たせしました!酒樽入りまーす!」
乱れた呼吸を整えてから そう声を張り上げると、懐かしい顔ぶれが此方を向いた。
「おぉっ、春華君じゃないか」
「お久しぶりです、近藤さん」
「一年見ない間にまた綺麗になったんじゃないか?」
「またまた~」
そう言って、ほろ酔い状態の近藤さんの肩を叩くと、近藤さんは豪快に笑った。
「酒樽軽々と運べる女に色気は期待できねぇな」
「‥何かおっしゃいましたか土方さん」
ちびちびと杯を進める土方さんの方を睨みつけると、土方さんは此方を見遣ってニヤリと笑った。
「誉めてるんだ」
「どこがですか」
「図太く生きていけそうだな、と」
「‥あんまり嬉しくない」
くくっと噛み殺したように笑うもんだから、私は土方さんの背中に張り手をお見舞いした。
「春華ちゃん!こっちこっち!久しぶりだネ」
「永倉さん!」
かなり小柄な永倉さんは、自己主張してもらわないとなかなか気付けない。‥なんて事はもちろん本人には言えない。
「相変わらずちっちゃいですねー永倉さん」
「はははー、君も大して変わらないけどネ春華ちゃん」
笑顔ながらにちょっと怒り気味な永倉さんの顔に負けじと私も微笑み返す。
と、永倉さんの肩越しに“デカい背中”を見た。
「あぁほら、永倉さんには対比物があるから余計に」
そう言って私達の視線が向かうのは“対比物”のいる方向。永倉さんの後方で新米隊士らしき人に絡んでいるデカい人
「‥左之、ね」
本当に 二人で歩いていると余計小さく見られるんだよ、と愚痴を零す永倉さんが面白くて、私は思わずくすりと笑った。
改めて周囲を見回すと、さっき自分が運んできた酒樽に人が群がっているのが見えた。殆どの人がそこにいる。
「あれ‥───」
そこまで言いかけて、とっさに次に続く言葉を飲み込んだ。
“この人達”と付き合う上で、自分で決めている決まり事があるからだ。
「ん?どうした、春華ちゃん」
「あ!! い、いえ何でも」
──××さん最近いらっしゃらないですよね──
聞いてはならない。彼らは“新撰組”だから‥
「‥春華ちゃん?」
「はい‥?」
「──平助なら、生きてるから安心しな?」
考えていたことをズバリ言い当てられて、内心ドキッとした。永倉さんって、洞察力が凄い。
「京都のどこかには居るからサ」
「‥はい」
私がほっと胸をなで下ろすと、永倉さんは柔らかく笑んで 頭を優しく撫でてくれた。
彼らに聞いてはならない事。去年は来ていたのに、今年は見当たらない人の事。
もし聞いたとして、私はその答えを受け入れる勇気がない。
「春華ちゃん怖い顔してる」
「へっ?」
「笑顔笑顔。折角の花見だからね」
そう言う永倉さんの笑顔にはかなわないと思った。
一頻り話した後、そわそわしながら辺りを見回していると、永倉さんに笑われた。
「“あいつ”なら向こうで散歩してるよ。酒飲まないから」
「あっ、はい!あの、すみません、じゃあ 失礼します!」
またもや考えている事を見透かされて完全に動揺してしまった。‥‥顔が火を吹くようだ。
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