第十三話『tears』
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これから歩むのは修羅の道だ。勝っちゃんを本物の大将にし、自らも武士になる。その為ならばどんな手段も厭わない覚悟がある。
そんな道に、あいつを引きずり込むなんて間違っている。平和な場所で、穏やかに過ごさせる──それが正しいことは明らかだ。
──それでも
置いていきたくない、と思う。その気持ちが自分の中に存在することに気付いて、驚く。
今まで抱いたことのないこの感情は、“家族”への信愛の情だろうか──それとも‥
どちらの言葉を口にしても、どちらも自分の身侭でしかないように感じられて──結局、自分の中で答えを見つけられないまま、襖の前に立った。
「──‥結希、居るか」
一呼吸置いて訊けば、中でカタリと音がした。そこに居ることは分かったが、返事がない。
「入ってもいいか?」
否、とは返ってこなかったから、それは無言の了承だと判断して、そっと襖に手をかけた。
開けた先、夕日が射し込んだ室内には、竹刀を膝に置いて、胸元で何かを握っている結希がいた。
「──‥そこまで行ってもいいか?」
まるで壊れ物を扱うかのような、いちいち許可をとる自分の馬鹿丁寧さに少し笑えた。
結希は少し間を置いて、それから首を横に振った。それは想定と違う反応だったから、少し驚きつつ──俺はとりあえず入り口の傍に腰を下ろした。
言葉を探しながら、改めて結希の様子を窺う。
手で握っているものの正体は──結希の首から伸びている、銀の鎖を見て理解した。それは初めて出会った日、結希が身に付けていたもの。結希の名が刻まれているという、珍しい銀の首飾り。──俺はその存在を忘れかけていたが、きっとあの日から肌身離さず身に付けていたのだろう。
それを握り締めているコイツの胸中は、今何を思っているのだろう。
「──‥なぁ、結希」
かけるべき言葉も見つからない内に、口を開く。
「さっきの言葉──誤解させたなら悪い」
ふっと、俯いていた結希の視線が上がって、俺のそれとぶつかる。
漸く合わされた視線に安堵しつつ、涙を堪えた瞳に罪悪感が沸き上がる。
「さっきその‥‥女の涙が苦手だと言ったのは、今までに出会った奴の話であって──お前のことじゃなかった」
あんな流れがあった中で、こんな言葉が響くとは思えないけれど、それでも、思い付く限り伝えなければ。
「前に言ったよな。お前に会ってから、俺の中で何かが変わったと。」
それは前にお夏との一件があった時、柄にもなく自分語りをした時。
──お前は、お前のままでいい
確かにこれは、口に出した筈だ。
「だから、泣きたい時は泣け、言いたいことは伝えてくれ、嬉しいこと、悲しいことはそのまま表せ」
等身大の結希を見ていることこそ、皆の──俺の、喜びだ。
だからこそ、確認しなければいけない。
「──京に、一緒に上りたいか?」
この訊き方は、我ながら狡いと思う。自分の意見を示す前に、相手の出方を窺う。
それでも、こうせざるを得ないのは──
──‥俺は、お前に幸せになって欲しい
心から願う、その想いは、知らぬ間に言葉になって結希の耳に届いていた。
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