第十三話『tears』
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ちゃんと向き合って話をしなさい、とお夏さんは言った。それに頷いて別れたものの──このままじゃいけないことは分かっていても──なかなか踏み出せない。
溜め息と共に、重い足取りで試衛館の門をくぐる。
「‥ただいま戻りました」
そう小さく呟くと、皆は少し驚いたように体を反応させて振り向いて、それから口々に“おかえり”を言ってくれた。
明らかについ今まで浪士組の話をしていただろうに──私が戻ったことに気付くと、皆は極端にその話題を避ける。
申し訳ないやら、一人取り残されているようで悲しいやらで、俯きそうになったところで、辛うじて踏み止まって頭を振る。
──水を差したくないって思っていたのに
頬を叩く。無理にでも口角を上げようとして変な顔をしていたら、土方さんと目が合った気がした。
『ちゃんと向き合って話をしなさい』
お夏さんの言葉が頭の中で響いて、気付くと私は土方さんの方に歩みを向けていた。
「ただいま、土方さん‥‥──あの‥」
勢いで口を開いたものの、言いたいことが上手く出てこなくて、出かけた言葉を飲み込んだ。自分から話しかけておいて黙ってしまうなんて、迷惑極まりないというのに。
そうして私が口ごもっていると、土方さんは頭を掻いて、少し空を見つめてから私の方に視線を戻した。
「お前、いつの間にかお夏と仲良くなってたんだって?」
すごいな、と土方さんは笑った。
口ごもっている私の代わりに、気を遣って話題を探してくれたことが感じられて、胸の奥がじんと温かくなる。
「お前はあいつのことは苦手なのかと思ってたんだが」
土方さんの言葉に、苦笑する。確かに最初は少なからず苦手に感じていた。あの時のことを思い出すと、自分の幼さを改めて感じてしまう。けれど、今は──
「最初は‥‥ちょっと。でも、土方さんのおかげで仲良くなれました」
「? 俺の?」
目を丸くする土方さんが可笑しくて、いつの間にか心が解れて笑みが零れていた。
「きっかけをくれたのは土方さんだから」
「? そうか」
「ふふ‥最近は私の知らない土方さんの昔の話も聞いて‥‥」
「な゛‥!」
思わず私が口を滑らせると、土方さんは焦ったように短い声を上げた。──言っちゃいけなかったかな。
「──どんな話だ‥」
「えーっと‥ 出稽古先でやんちゃしてたこととか‥ 女性関係のいざこざとか‥?」
土方さんは口を開いて何かを言おうとして、それからがっくりと肩を落とした。
「あいつは余計なことを‥」
項垂れる土方さんに、思わず小さく笑いを零した。
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