第一話『daring encounter』
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何かが聞こえる気がした。それは痛切なまでに切なる願い。狂おしいほどの心の叫び。
それはどこか 嘗ての俺に似ていた。
「‥どうしたことか」
「‥‥」
隣の相棒は、先刻からそればかりを繰り返している。きっと人の良い勝っちゃんのことだから、今は親身に彼女と同じ痛みを感じていることだろう。
俺は静かに視線を布団の上に横たわる女の方へ移した。
蒼白な顔色。
無造作に長い黒髪。
裂傷だらけの体。
ボロボロだった衣服──今は着替えさせ出来るだけ綺麗に畳まれている。
身一つで彼女はそこにいた。
彼女の身に何が起こったのか、想像がつかない。──出来たとしても、良くないものばかり──だからこそ、彼女が目覚めるのを待つ他ないのだ。
「‥勝っちゃん、これからどうするよ」
「んむ‥、とにかく彼女が目覚めるまでは‥」
「だけど」
彼女には悪いが、あまりにも得体が知れない。そんな人間を家にあげるということは、全く許容の範疇を越えている。
善良なる邦人ならいい。けれど、
「もし、」
“好ましからざる人間”だったなら?
言おうとして、息を言葉を飲み込む。また“聞こえた”からだ。
『──‥私を、拒絶しないで‥』
我に返ったのは、勝っちゃんが肩を揺すったから。そして気付いたのは、彼女の瞼がぴくりと微かに動いたこと。
「‥‥ん‥」
彼女は姿に似合わず低く唸った。傷が痛むのかもしれない。先に気付いた勝っちゃんがすぐさま彼女の傍に寄った。
「気がついたか! 傷が痛むのか!? 水は飲めるか? 名前は!?住んでいるところは!?」
おいおい、そんなにいきなり訊かれても答えられないだろう。
案の定、彼女は閉じていた目を完全に開いて丸くし、唇を震わせている。
「‥勝っちゃん慌てすぎだ」
肩に手を置き、軽く溜め息を吐く。こういう時は俺に任せろよ。
俺はコホンと咳払いすると改めて彼女と向き合った。
「頭はっきりしてきたか?お嬢さん。お前は山の中で倒れてて、俺達が此処へ連れてきた。俺は土方、こっちは近藤。──お前、名は?」
出来るだけゆっくりと、強すぎることなく、それでも頼もしいように、優しく言う。不安を増幅させたら恐らく口を開いてくれなくなるから。
だが、どうしたことだろう。この作戦は成功したはずなのに、彼女は一向に目を見開いて唇を震わせているままである。
「‥わ、私‥‥」
不意に開かれた口から放たれた言葉は、消え入るように小さかった。
けれどそれは高く澄んだ声だったから、聞き取ることは可能だったのだけれど。けれど続いて紡がれた言葉は、思わず聞き返してしまうほど、一度では解すことが出来ないものだった。
「私‥‥、誰‥?」
勘弁してくれよ。
【第一話 END】