第十三話『tears』
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「見送りが少なくて悪いね。皆盛り上がってしまって」
「えいきにえいきに!いやぁー、おんしらにとって、まっことびっぐなうぇーぶが来たぜよ」
舞い込んできた吉報に、皆が盛り上がっているのを横目に見ながら、山南さんと坂本さんは同門同士で和やかに話していた。頭が呆然としていた私は、自然と足がその二人の元に向かっていた。
「──結希は浮かない表情だのう」
「‥‥」
坂本さんのその気遣うような微笑みに、ただ、曖昧に笑って、それから──目を逸らすしかなかった。
「ちょっと‥驚いて‥」
「結希‥」
そう答える私の肩を、山南さんが引き寄せてくれた。無言で、ただ、肩を擦ってくれる。
「──皆の夢が、叶うんだなぁって思うと、胸がいっぱいで」
気付けば、口が勝手に言葉を紡ぐ。
なんて心が此処にない無機質な答え。優等生ぶった発言。
「本当ですよ‥」
ウソ。
本当は、頭なんかまともに回ってなくて、ただただ、呆然としている。皆にとってはこれ以上ないような吉報であることは分かっている。それを喜ぶ自分も確かにいる──けれど
──けど、私は ‥‥武士にはなれない
いよいよ言葉が繋げなくなって、口をつぐんでしまう。そんな様子を、二人が困ったように見つめているのが分かる。
──皆を困らせたくないのに
どうすれば、皆を困らせないで済むだろうか。
「──結希の夢はなんだろうの」
「え?」
考え込んでいると、坂本さんが顔を覗き込んできた。見つめてくるその目は、あまりにまっすぐだ。
──私の夢‥?
「武士になるち言うがは他の人らぁの夢じゃろ」
そう、“武士になる”のは、皆の夢。心はそう在りたいとしても、私は武士になりたいわけではない。
──それなら
「おんしは、何がしたい。どう在りたい」
私は何がしたいのだろう。どう在りたいのだろう。
その答えを、自分の中に探す。
するとすぐに思い当たるのは、刀を握ることを決めた時のこと。
──強くなりたい
そう、確かに思った。そして、いつしか芽生えていった感情。
──皆の力になりたい
でもそれなら、どうすればいいのだろうか。
結局の答えが見つからなくて、私は項垂れる。
「──見つかるとえいねゃ」
そう言って、坂本さんは包み込むように温かな笑みを向けてくれた。本心からそう思っていることが感じられ、初対面の自分にまで向けてくれるその優しさが嬉しくて、泣きそうになった。
──大きい人
はちゃめちゃで、破天荒で、不思議な魅力を持つ人。
初めて会ったのに、もう彼が持つその空気に引き込まれている。私はぼうっと坂本さんの大きな笑顔を見ていた。
それから坂本さんは、山南さんと吉報に沸いている皆に激励の言葉をかけ、“一足先に西に行っている”と告げて、試衛館を後にした。
最後に何も言わずに私の肩を叩いてくれた、その大きな手が、印象的だった。
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