第十一話『ambition』
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遠くから、鐘の音が聴こえてくる。もうすぐ、新しい年が明ける。
古い年が終わりを告げ、新しい年が来るのだと、じわじわと滲むように感じていく。
「──ねぇ、土方さん」
「なんだ」
皆が新年を迎える酒宴を催しているのを眺めながら、窓際で同じように隣で鐘の音を聴いていた土方さんに声をかける。
「本年は、大変お世話になりました」
「なんだよ改まって」
少し驚いたように此方に目線を向ける土方さんに、笑い返す。
──確かに、改まって言うのは照れてしまうのだけれど。
「──土方さんと近藤さん、そして皆に出会って、居場所を与えてもらって‥‥本当に私は果報者だなと思ったから」
ありがとうございます、と 深々と頭を下げると、少しだけ間があって──それから、いつもの呆れたような、優しい吐息が聞こえた。
言葉少なに、土方さんはこうやって語る。
「あのね、土方さん」
「ん?」
頭を上げて、目と目を合わせて、真っ直ぐに言う。感謝の念と、親愛の念が溢れてきて、笑顔が零れてしまう。
「私、もう──怖くないです」
過去を持たないことを、怖いと思っていた。
足下が見えなくて、歩いていけるのか不安だった。
けれど、今、私は此処に立っている。自分の足で、此処まで歩いてきた。
「皆がいてくれたから。強さをくれたから。」
過去がなくとも、今を重ねていくことができた。
こうやって歩いていけばいいのだと、分かった。
「だから、ありがとうございます」
積み重ねた一年が終わろうとしている今、どうしても伝えたくなった。
襟を正す気持ちでまた頭を下げれば、また頭上からあの吐息が聞こえた。
「──お前は分かってないな」
「え?」
何を、と面を上げて訊こうとすれば──そこにあった予想外の笑顔に、言葉を塞がれた。
優しい、穏やかな笑み。
「お前は、お前が思っている以上に──力をくれてるさ」
常より小さな声だったから、少し聞こえづらくて、もう一度言って欲しかったけれど 土方さんはそっぽを向いてしまったからそれは叶わなかった。
「‥っ」
聞こえたことが本当だったなら、どんなに嬉しいだろう。どんなに幸せなことだろう。
幸せに満たされた胸に手を当てて、もう一度噛み締める。そして、目を閉じて自分自身に問い掛ける。
今自分に出来ることは何だろう。まだまだ頑張れることは何だろう。見つめて──もっと“家族”の一員として胸を張れるようになりたい。皆の力になりたい。
そう改めて決意した所で──窓の外から聞こえていた鐘が止まった。
「──明けたな」
新しい年が、始まった。
背筋が伸びて、胸の中がスッと清らかになるのを感じる。
「今年も、宜しくお願いします」
「あぁ、宜しく」
新年の挨拶が飛び交う。
それから夜が更けるまで、ずっと話は止まない。
それはくだらないことから、真剣な話まで、ありとあらゆることを語り合った。
あの日、皆で見た日の出を、私は一生忘れない。
このかけがえのない時が
ずっと続くと信じていた私
“家族”との別れが
すぐそばに迫っていることも知らずに
私は、笑っていた
それでもこの時、胸に抱いた志は
紛れもなく誠のものだったから
目指す為に、走り抜けることとなる
激動の一年が、幕を明けた
【第十一話 END】