第十話『vitality』
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「──目が覚めたか」
平助の言葉が頭の中で繰り返し響く。その言葉を口の中で復唱しようとすると、井戸端で顔を洗っていた土方さんと出会した。
私の姿を見留めるなり、土方さんは笑った。
「眉間に皺寄ってるぞ」
言われてから、知らない内に眉間に力が入っていたことに気付いた。慌てて皺を伸ばすように擦る。
「また難しいこと考えてたのか」
そう言って呆れたように笑う土方さんの纏う空気からは──包み込むような力を感じた。それは、見守る力。
──この人も、強い。
不意に思って、浮かんだ言葉は──脳を介する前に口から溢れていた。
「──土方さんにとって、強さって何ですか」
言葉を溢してから、自分が言ったことを知る。またやってしまった──慌てて何か言葉を付け足そうとしたら──土方さんは苦笑とも、自嘲とも取れる、複雑そうな表情をした。少しだけ視線は空を仰いで、それから嘆息と共に告げられた。
「──悪いが、お前が求めてる答えは、きっと俺は与えられない」
土方さんの言葉の意味が捉えられなくて、もう一度問い返そうとしたら──また浮かべられた自嘲するような笑みに、言葉を飲み込まされた。
「俺にとっての強さは──お前には穢れすぎてる」
その表情を見て、込み上げてくる感情。どうしてそんな顔をしているのだろう。穢れていると言うのは、何故だろう。
どうしようもなく堪えられなくなった感情は、気付けば言葉へと姿形を変えて溢れていく。
「──まだ、私の中で“強さ”の答えは出ていないのですけど‥」
土方さんは空を仰いでいた顔を戻して、此方を見てくれた。ぶつかった視線。常にはない翳りを見せたその瞳に、意を決して、言を続ける。
──届く、だろうか
「──強さに、汚いも綺麗もないんじゃないでしょうか‥」
まだ自分の答えを見付け出せてもいない未熟者が何を言う、と言われてしまうかもしれない。──さっきまで不安を見せていた自分が、それを棚に上げて。けれど、
「それがその人の信条なら、そこに他の人が賛同するか否かはあっても──どれも尊いものだと思うから」
それでも言わずにいられなかったのは──土方さんの、自分を嘲笑うかのような表情が切なく、胸が苦しくなったから。
土方さんは何においても難なくさらりとこなしてしまう人なのだと思っていたけれど──胸の中では、現実と理想の狭間で葛藤を抱えているのかもしれない。
自分のことをどこか貶めているような土方さん。何故かは分からない。けれど、弱くて力のない、こんな私でも、きっと言えることはある。それは嘘偽りのない、私の心の中にいつもある感情だから。
「間違いなく私は──土方さんのことを、敬愛していますよ」
思いきって告げた後、恐る恐る面を上げる。すると、土方さんは目を瞠って、此方を凝視していた。
目が合うと、ややあってから我に返ったように身動ぎして、それからゆるゆると掌を顔に当てた。
「あの‥土方さん‥?」
その様子に不安になって、声を掛ければ、見るなと言わんばかりに空いている方の手を私の前に翳した。
土方さんは何も言わなかった。けれど、覆った掌の隙間から見えたのは──笑顔だったような気がした。
誰かより強くなりたかった訳じゃない
誰かに勝ちたかった訳じゃない
何よりも、
自分の弱さに打ち勝ちたかった
生きる力が欲しかった
そして、
大切な人を守る力が欲しかった
今、此処にいる
自分に何が出来るのか
考え続けていく
目指し続けていく
それがきっと
私の望む
強くなる方法
【第十話 END】