第九話『incentive』
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翌日、再び行商の為に町に繰り出す。
またあの美人二人が見えるところにいるけれど、今日は昨日のことが嘘のように心が軽い。
あの人達はあの人達で、土方さんと出会い、今ここにいる。私は私で、土方さんと出会い、今ここにいる。それぞれに、意味がある。
そのことで人と比べて、自分を貶めたりする必要なんかない。それぞれに、価値があるのだから。
そう思うと、昨日はただ怖く思っていた二人に、どこか親愛の情が湧いてきたから不思議だ。
彼女達にも生きてきた道があって、その途中でこうやって私の道と交わって、出会った。
折角だから石田散薬も買ってくれないかな、なんて商売心が湧いてきて、声をかけようとしたその時──彼女達にぶつかっていく人影を見た。
「きゃっ‥!」
小さな悲鳴があがったかと思うと、ぶつかった男は何かを手に持って走り始めた。──こちらの方へ来る。
「──っ! 泥棒!!」
「え?」
手に持っていたのは彼女の巾着だった。焦ったように走る足を速める盗人。
考えるより先に、体が反応した。
手にしていた石田散薬の昇り旗を、竹刀のように握り締め、盗人の脛に目掛けて振り抜く。その軌道に怯んで盗人が足を止めようとしたところで、そのまま切り返して上方に振り上げ、顎を打ち抜いた。
「──がっ‥‥!」
見事に顎に入ると、男は力なくその場で崩れるように倒れ込んだ。
上手く仕留められたことに安堵して、額にかいた汗を拭う。すると、頭に大きな手が置かれて、見上げれば土方さんが呆れたように笑って息を吐いた。
「──あんまり無茶はするな」
実践にはまだ早いとの見込みだったのだろう。少し張り切り過ぎたかな、と思いつつ、でもとっさに体が動いてしまったのだから、仕方ない。
すると、それまで一連の流れを見ていた周囲の町民が、一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手をくれた。
「やるな嬢ちゃん!」
「こりゃー小さな剣客さんだ!」
激励の言葉をもらう中で会釈を返しながら──地面で伸びている男の手から巾着を取り上げる。被ってしまった土を手で払うと、立ち尽くしている彼女の元へと駆け寄る。
「無事で良かったです!──はい」
「あ、ありがとう‥」
呆然とした彼女は、驚いた表情をしてから──軽く笑った。昨日までの笑みとは違う、これはきっと──本物の笑み。
まじまじと私の顔を見て、彼女は口を開く。
「面白い子ね」
「え?」
「──何でもないわ」
くすくすと、彼女は笑いを溢した。それは嫌な感じのする笑いではなく、どこか気持ちのいい笑いだった。
私は首を傾げつつ、それでも昨日までの蟠りのようなものがなくなったことが少し嬉しくて、頬が弛むのを感じた。
人と人とが出会う
それはどんなものであれ
きっと意味のあること
その価値を高めるのも低めるのも
これからの自分次第
気付かせてくれたのは貴方
いつだって
力をくれたのは貴方だから
いつかきっと
私が貴方の力になりたいと思った
【第九話 END】