第九話『incentive』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
自分でも、何で面と向かってこいつに自分語りなんてしているんだと思う。だけど、それよりも、こいつに先刻のことで嫌な感情を持たせたままにする方がより癪だった。
「──小さい頃から、奉公に出されては出戻り、出されては出戻りの繰り返し」
何に不満だったんだか、何一つ長続きしない。
「──で、結局、家の口伝の薬を売り歩く今の生活」
何をしても 釈然としなかったあの頃。今では過去の話のように感じてしまうが、本当はつい最近までの話。
「“ああいう連中”と付き合い始めたのは、あー‥今思えば──日常に刺激が欲しかったんだろうな」
刺激、という言葉を復唱して、結希の頭に一瞬疑問符が浮かんで──それから急速に感嘆符に様変わりしたのが見てとれた。
免疫のなさそうなこいつにはそれこそ“刺激的”過ぎただろうか。
そんな百面相を見て、思わず苦笑を洩らした。
「──でも、違ったんだな」
「え?」
──本当に求めてたのは、そういうことではなかったんだ
低く呟くと、聞き取りづらかったのか 結希は問い返してきた。
結希の純粋そうな目で見られると、どうも普段の調子が狂わされる。──でもきっと、求めていたものは、そう──
どう言えばいいものか‥‥考えて、結局はそのままの言葉しか出てこない。
「それに気付かせたのは──あー‥──お前だ」
普段はどんな時も口八丁手八丁で上手くやれる方だと自負しているのに、こいつの前ではどうにも通用しない。そんな自分に笑いが溢れた。
変化のない、安穏とした、ぼんやりとした日常に、突如現れた変化。その登場の仕方もまぁ衝撃だったが、それだけではない。
「──あの日から、変わった」
何も変わらない、刺激のない毎日だとどこかで諦めていた自分。
右も左も分からない中、それでも自分の力で切り開いていこうと、自ら変化を起こしていく結希。
か弱く儚い少女だと思っていたら──自ら強さを求めて、泣きながらでも前に進んでいく。
それに感化されるように、いつの間にか、こいつと一緒に歩き始めようとしている自分がいることに気付いたのは、いつからだったか。
変化に戸惑いながらも──以前の燻っていた自分よりも、今の方が、幾分気に入っている。(口に出して認めるには、くだらなく積み重なった自尊心がそれを邪魔しているが)
「──だから、‥‥お前はお前のままでいいんじゃねぇか」
本当にとんでもなく柄にもないことが、口から溢れた。
+