第九話『incentive』
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宿に駆け込んで、部屋に入るなり戸をピシャリと閉めると、その場に力なくずるずると座り込んだ。
そして部屋の片隅にある姿見に映る自分を見て、自嘲が洩れた。
──あぁ、なんて幼い
容姿のことだけではなくて、本当に問題があるのはその本質。
──なんて弱々しい。
あの美人の嘲笑なんて、弾き返してしまえばいいのに。軽く受け流してしまえばいいのに。──それができない自分は、きっとあの人と肩を並べて立つ資格もない。
居たたまれなくなって、私は膝を抱える手に一層力を込めた。
微睡む意識の中で、いつかもこんな風に膝を抱えていたな、とぼんやり思った。
“白い空間”の中、何もできない自分が嫌で、それを打ち破る術も分からなくて、膝を抱えていた。
そんな時、いつも決まって──それは自分の全てを許してくれるように──“温かな手”が私の頭をそっと撫でてくれた──
そこまで思考が至った時、ふっ、と頭に心地好い重みが加えられたのを感じて、私の意識は浮上した。
「風邪ひくぞ」
目を開けると、目の前には色男の顔。
いつもと変わらない調子で、私のことをこども扱いする。自分がこうだから、仕方のないことだとは思っているのだけれど──少しだけ膨らんだ不満の気持ち。
「──今日はもうお帰りにならないのかと」
思っていました、と棘のある言い方をすれば、土方さんは苦笑した。
「あーないない。ちゃんと帰ってきたろ」
何でもなかったように笑う土方さんの余裕と、余裕のない私。その対比にまた自分が幼く感じて、膝を抱える。
心の中がモヤモヤして、その理由が分からなくて、思わず口をついて出てくる言葉。
「──土方さんは、交遊関係が広い、ですね」
「‥あー‥まぁ多少‥?」
「‥本命はいるんですかね」
我ながら、本当に仕様もない問いをしたと思った。
「‥‥結希?」
驚いたように覗き込んでくる土方さんの視線に合わせられなくて、私はそっぽを向いた。
「‥いいんです。ごめんなさい。さっきみたいな“大人な女性”を見て‥、自分の幼さに嫌気が差しただけです」
本当に、仕様もない。土方さんの交遊関係に自分が首を突っ込む権利などありはしないのに。自己中心的に批難するなんて。
すると、頭上で ふっと、土方さんが息を吐いたのが感じられた。
「──言っとくけどな、アイツらはお前より相当年上だからな」
比べる必要もない、と 土方さんは笑った。
でも、それだけじゃ釈然としない私を見て、苦笑した。そして一瞬迷ったような顔をして、それから、何か観念したように息をついた。
「あー‥、本当はこんな柄じゃねぇんだが‥」
仕方ない、と土方さんは頭を掻きながら言って、私の前に腰を下ろした。
「お前に嫌な思いさせたままなのも癪だから、仕方ねぇ」
土方さんは、言葉を選びながら、時折言い淀みながら、話してくれた。柄にもない、と言いながら話してくれたのは──“自分語り”
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