第九話『incentive』
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「寄っていきな見ていきな! 此処にあるのが打ち身風邪に万能に効く石田散薬‥──」
土方さんと行商の旅に出ている内に、気付いたこと。
「──まぁ、歳じゃない!」
「随分ご無沙汰じゃあないの!」
土方さんは、モテる。
【第九話 incentive】
正確に言えば、各地に“好いヒト”がいる。──しかも決まって、美人。
──土方さんって、面食いなんだ‥
行商で出向いた町町で、必ずと言っていい程、美人な女性に声をかけられる。あまつさえ、今日は二人‥‥
──二股‥?
そっと息を吐いて、土方さんに無遠慮に触れる美人二人の顔を見やると──目が合ってしまった。
──あ、嫌だな‥
直感的に、気付いてしまった。邪魔そうに、そして決して対等には見ない、半ば、侮るような視線。
二人はそんな一瞥を私にくれてから、すっと視線を土方さんに移して、綺麗に微笑んだ。
「ねぇ、この後時間いいでしょう?」
「久しぶりだもの、ね?」
「悪いが今は行商の‥」
「あら?この“可愛らしい子”は何方?」
まるで今初めて気付いたかのようにわざとらしい振る舞い。軽く嘲笑を含んで発されたその言葉に、顔が一気に熱を帯びた。
──やめて‥
土方さんの前で、そんなこと。
──やめて
「こいつは──」
「──私!宿に戻ってます!!」
広げていた散薬を乱暴に薬箱に詰め込んで、私はその場から逃げ出した。土方さんの口から自分のことを聞くのが怖くて。そして、土方さんがどんな顔をしているのか、見ることができなくて。
臆病な私は、向き合うことができなかった。
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