第八話『lantern』
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「はい、到着!」
目隠しをされたまま連れてこられた林の中。解かれた瞬間、目に飛び込んできた光景を、私は忘れない。
それは地上に散りばめられた星。暗闇の宇宙を、儚げな黄緑色の光が照らす。
蛍の集う、秘境の地。
「すごい‥」
我知らず言葉を零すと、周りの空気が和らいで、暗がりの中で皆が笑んだのが分かった。
数え切れない蛍の光に、目が捕らわれる。
「おい、あんまり先に行くなよ。何も見えなくなるからな」
宴会が始まってお酒を楽しんでいる皆の中から、土方さんの声がした。私はこれに上の空で答えた。
今思えば、それがいけなかったのだと分かるのだけど──この時の私は、あまりにも蛍に見とれすぎていた。
‐‐‐‐‐‐‐
暗闇の宇宙に散りばめられた地上の星。
そんな美しい情景に心酔していた私は、いつの間にか一歩、二歩と蛍の光に誘われるように歩みを進めていた。
それは本当に無意識だったから──気付けたのは、本当に偶然だった。
「‥‥あれ?」
到底数え切れないだろうと思っていた蛍の数を懲りずに数えていたら、ふと指が止まった。
明らかに、数が減っていることに気付いたから。
「え‥っ」
一瞬間が空いてから、突然焦燥感が全身を駆け巡って、現実に戻された私は後ろを振り返る。──けれど、そこにあるはずの皆の顔は暗闇の中。持ってきていた灯りも何処にも見えない。
やっと事態に気付いて、サッと血の気が引く。自分は迷子になったのだ。この暗闇の中。何の確かな光もない中。
「‥どうしよう‥‥」
頭の中がこれまでにないほど高速で回転する。
自分の微かな記憶を頼りに引き返してみようか。
逆にこの林を抜けて街道に出た方がいいだろうか。
それとも木に登って辺りを見回してみる──?
「‥‥ダメ」
どれも得策ではない気がして、私は頭を振った。
闇雲に歩き回れば、きっとますます深みにはまっていくだろう。
だから、
「ここで、じっとして、迎えを待つ‥」
それが一番だと、自分に言い聞かせた。
──大丈夫、土方さんたちならきっと見つけてくれる。
不思議と感じた確かな信頼。小さく頷いて、手のひらを握る。すると、黄緑色の光が私の手に留まった。
「──蛍の光もあるし、ね」
小さく笑みが零れる。その仄かな光に、少しだけ勇気をもらった。
‐‐‐‐‐‐
「近藤さーん、総司ー‥」
ただ待っている訳にもいかないので、皆の名前を読んでみる。
「永倉さーん、原田さーん、平助ー」
けれど、今のところ誰からの返答もない。少しだけ心細くなって、私は膝を抱え込んだ。
そして口をついて出たのは──
「‥‥土方さん‥」
貴方の名前だった。
ハッと気付いて、誰も聞いていないのに顔が熱くなっていく。あまりの恥ずかしさに堪えきれなくて、頭を抱え込む。
(何やってるんだろ‥私)
はぁ、と息を吐く。
すると、私の周りを飛び交っていた蛍が一斉に空へ飛び立った。
何事だろうと思って顔を上げる。
「あ‥」
目に飛び込んできたのは、提灯の灯り。仄かな──それでも確かに、そこに在る光。
「──君はもしかして‥‥結希さんかな?」
その灯りを手にしていたのは、優しい目をした、穏やかな光を抱いた人だった。
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