第八話『lantern』
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ゆらゆら揺れる
仄かな光
それでも、
そこに確かに
在ってくれるから
私たちは
臆することなく
歩むことができるんだよ
【第八話 lantern】
季節は夏になった。昼はじりじりと日差しが暑いけれど、夜の帳が下りれば涼やかになる。
そんなとある夕暮れ時、私は縁側に腰掛け、風に揺られる風鈴の音を聞いていた。
「──‥?」
ぼんやりと眺めていた庭の隅で、何かが光った。何だろう、と好奇心に誘われるまま、私は下駄を引っかけてふらふらと光の方へと歩みを進めた。
──黄緑色の、光
見たことのない色の光に目を奪われる。だから、つまり、前をよく見ていなかったのだ。
ボスン、という音と軽い衝撃があって、私はやっと我に返って前を見た。
すると目に入ってきたのは、見慣れた着物。
「!土方さん」
どうやら余所見している内に土方さんにぶつかってしまったようだ。土方さんはキョトンとした顔で私のことを見ている。
「わわっ、ごめんなさい!」
慌てて謝って、余所見していた理由を説明しようと辺りを見回したら──原因の光はどこかへ消えてしまっていた。
あれ?と首を傾げてキョロキョロ見回しても、やっぱりあの光は見当たらなかった。
「どうした?」
「えっと‥」
光が、と言おうとして、土方さんの方を見やれば──土方さんの肩口が仄かに光を帯びた。
黄緑色の光。
「──あぁ、蛍だな」
土方さんは微かに笑んで言った。
これが‥、と感心の溜め息を吐きながら呟くと、土方さんはクスリと笑った。
「初めて見たのか?」
「はい!‥多分」
記憶が定かではない私には断言し辛いけれど、多分、この感動は初めてだ。
その様子に気付いたのか、そうか、と静かに言って、土方さんは優しく私の頭を叩いた。
「あ‥‥」
その弾みで、土方さんの肩に止まっていた蛍が飛び立った。ゆらりゆらりと仄かな光が夜空に舞い上がっていく。その不思議な光景を、私と土方さんは暫く目で追っていた。
それから暫くして、居間にいた私は原田さんの大きな声に呼び出された。何事だろう、と隣にいた近藤さんを見やると、意味深長な笑顔を向けられた。
「どうしたんですか?」
襖を開けて訊ねると、満面の笑みを浮かべた漫才三人組が仁王立ちしていた。そして各々の手には、徳利や一升瓶や提灯や‥ゴザ?
「“蛍見”するぞ!」
「“蛍見”?」
聞き慣れない単語に首を傾げる。すると、一升瓶を抱き締めながらうっとりとした表情で原田さんが応えてくれた。
「花見に因んで、蛍を見ながら宴会しようぜ!っつーわけだ!」
「結希ちゃんは蛍見たことないんでしょ?」
藤堂さんが、やっぱり満面の笑みを浮かべたまま言う。私は突然のことで目を丸くした。
──だって、私が蛍を見たことがないことは、皆は知らないはず
すると、永倉さんがクスクスと笑って私の肩を叩いた。
「実は優しーい土方さんのさりげなーい助言だったりして」
ハッとして、居間に座ったままの土方さんの方を向く。すると、パッと視線を逸らされた。
頭を掻いたり意味もなく髪をいじったりと忙しないその姿を見ていたら、思わず笑みが零れてしまった。
「‥ふふっ」
静かな温かさが、そこには満ちていた。
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