第七話『family』
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近藤さんは口に拳が入る。
土方さんは女ったらし。
総司は小さい頃泣き虫だった。
藤堂さんは思ったことをすぐ口にしちゃう。
永倉さんは一番小さいのに纏め役。
原田さんは刀より槍の方が強い。(そして脱ぎたがり)
居間に皆で円を描いて座り、そんな皆の色々な話を聞いた。
笑ったり、驚いたり。それは、これ以上ない程楽しい温かな時間。
夕暮れになるのなんて、あっという間だった。
「そろそろ腹が減ってきたな。夕餉にするか」
そう近藤さんが話を切り出した瞬間、待ってましたとばかりに私は勢い良く右手を挙げた。
「はい!」
「? どうした、結希?」
突然の私の行動に驚きながら近藤さんが問うと、私は少し緊張しているのを抑えて深呼吸をしてから、口を開いた。
「私、皆のご飯を作りたいです」
「ほぅ?」
私の進言に、近藤さんはどこか嬉しそうに呟いた。私は軽く拳を握る。
皆が自分のことを色々話して教えてくれるのに──私は自分のことが分からない。自分のことを何も伝えることができなかった。
そんな受け身でいるのが嫌だった。
何か自分から皆に働きかけたかったんだ。
皆の一員に、なりたかった。
「よし、じゃあ任せてみるか」
けれど、自分で進言しておきながら今更抱いている不安。
‥私って、包丁握ったことあるんだろうか。
「‥うん」
「なんというか」
「変わった味付けだね?」
案の定。悲惨な結果に肩を落とす。見た目は多分悪くはない──けれど、何処か味がズレているのだ。
「ははは!破壊力ハンパねーな!」
「作り方も記憶と一緒に忘れちゃったとか!」
そう言って場を和ませようと笑い飛ばす原田さんと藤堂さんの頭を永倉さんがすかさずハリセンで叩く。
「口が悪い!」
「そうだぞ、一生懸命作ってくれたんだ。それだけで嬉しいよ結希」
和ませようとしたり、励まそうとしたり。それは別々なようで、でもその実皆優しく笑って受け入れてくれている。
その優しさが嬉しいのだけれど、その分なんだか情けなくなって‥俯いた。そして味噌が少なすぎた味噌汁を啜れば──更に情けなくなった。
もう穴があったら入りたい──というよりいっそ埋めて欲しい。
すると、隣で黙々と箸を進めていた土方さんが何か黄色いものを口に運んだかと思うと、ふと箸を止めた。
「‥‥玉子焼きは美味い」
え?と問い掛ける前に、土方さんはもう一つ玉子焼きに箸を伸ばした。そして暫く噛みしめた後、納得したように飲み込んだ。
その様子を見ていた皆が挙って玉子焼きに箸を伸ばし、そして口に入れる。
「‥本当だ!」
「うまっ!」
頬を綻ばせて、口々にそう言ってくれる。沈んでいた心が一気に浮上するのがわかった。
「これは将来有望だね!」
「また作ってくれな」
そう言ってやっぱり優しく笑ってくれる皆に、胸がいっぱいになった。
それからまた食事に戻ると、再開する楽しい団欒の一時。
「‥‥あたたかいね」
そっと隣りでやっぱり黙々と食べている土方さんに向かって呟けば、そうか、と短く答えてくれた。
その短い答えの中に、皆への愛情を感じる。
──この人もやっぱり、あたたかい
「‥何でだろう」
「ん?」
皆で卓を囲んで、温かい料理を食べて、笑顔で団欒する──
「嬉しくて‥」
それはきっと、欲しかったものに似ていたのだろう。
記憶を失う前の、私が求めていたもの。
瞼を伏せて 今この時の空気を感覚を感情を噛み締めれば、胸に温かいものが染み渡っていった。
そしてあやすかのように頭に乗せられた手のひらは──やっぱり温かかった。
【第七話 END】