第七話『family』
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背後から聞こえてきたドスの利いた声に、饒舌だった藤堂さんの動きがピタリと止まる。冷や汗が流れているのが見て取れて、振り返ることも出来ていない。
その藤堂さんの様子に呆れたように溜め息を吐くと、彼は脇を抜けて私の前まで歩み出た。
「‥ったく。──メシ貰ってきた。食え」
そう言って土方さんは両手に持っていたお椀を私に差し出した。
朝餉の良い香りが鼻孔を掠めて、眠っていた食欲が呼び起こされる。
「ありがとうございます!土方さん」
「土方さん優しーい!」
いつの間にか調子を取り戻していた藤堂さんはからかうようにそう言うと、ぷぷっと小さく吹き出した。
「やっぱり土方さんもうツバ付けてるんじゃー‥ん!?」
藤堂さんの言葉が途切れたのは、目の前に“何か”が突きつけられたから。──それは竹刀。
剣風で揺れた前髪の間から冷や汗が一筋流れると、藤堂さんは強張った顔に必死に笑顔を貼り付けた。
「ヤんのかコラ」
「やややヤりません!!ヤダヤダ!だって土方さんとの試合、試合にならないんだもん!!」
足は使うし急所狙うし!と言いながら藤堂さんは必死に顔の前で手をブンブン振る。
──“試合”?
飛び出した単語に首を傾げると、近藤さんが笑って答えてくれた。
「こいつらはウチの道場の食客なんだよ」
食客‥。
飛び出した難しい言葉に更に首を傾げると、近藤さんは声を立てて笑った。
「ははっ、何の難しい事はない。まぁ家族みたいなものだ!」
なっ、と同意を求めるように近藤さんが周りを見やると、皆満足そうに笑った。──それは温かい絆。
なんとなく胸の奥が温かくなって、自然と私も笑顔になる。
──家族、かぁ‥
そう物思いに耽りそうになった私の顔を、藤堂さんが覗き込んできた。そして、ニッと惜しみない笑顔を向け、優しい声で言う。
「だから、結希ちゃんは新しい家族だね!」
「え?」
問い返して、藤堂さんの瞳を覗き込む。そしてその瞳の中に──温かさを感じた。
ゆっくりと周りを見回すと、同じ温かな瞳が私に向けられていることに気付く。気付くと途端に、頭の先から足の先まで温かなものが巡るのが分かって、むず痒い感情が胸を支配した。
「‥‥へへっ」
言葉に出来ないようなこの感情。どう表せばいいか分からないから、私は笑った。
そして、「ありがとう」そう言葉にすれば、思いの全てが昇華した気がした。
「どうしようどうしよう土方さん!俺可愛い妹ができちゃった!」
「‥妹だと思うなら間違っても手ェ出すんじゃねぇぞ」
「‥はっ!もしかして既にお手つ」
「下品な言葉禁止!!」
「?」
「結希は分からなくて良いんですよー」
「はははっ」
賑やかな家族。
優しい皆。
温かな絆。
笑顔の溢れるこの時が、いつまでも続いて欲しいと思った。
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