第七話『family』
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温かくて 優しくて
愛おしくて 切なくて
擽ったいほど 大切な‥
なんて 素敵な 絆だろう
【第七話 family】
木片と木片がぶつかるような、高くて乾いた音が辺りに響き渡る。時折吹く風で枝葉がサラサラと鳴る中で、それははっきりと聞いてとれる。
私はこの音が好きだった。
「──っやぁ!」
拮抗していた土方さんの刀をイナして踏み込もうとすれば、そんな事はお見通しだとでも言いたげに再び刀を捕らえられてしまう。
「‥っ」
──力勝負では叶わない
悔しい気持ちを押さえ込んで、出来る限り頭を冷静に保って打開策を探ろうとしたその時──ピリッとした刺激が体に響く。
神経が“何か”に反応した。
──動く‥!
「反応が遅い!」
「痛っ」
身構えようとした瞬間を突かれて、土方さんの小手が入る。弾かれた拍子に痺れが走って、私は竹刀を落としてしまった。
「あ‥」
この勝負の決まり事──刀を落とした方が負け。よって私の負けだ。
ガクリと肩を落とす。
「駄目かー‥」
「反応がまだまだ甘いな」
精進精進、と言って口角を上げ、土方さんは竹刀で自分の肩をトントンと叩いた。まだまだ余裕綽々といった感じがして、実力の差をまざまざと感じさせられる。
勿論自分が未熟も未熟なのは分かっているけれど、なんとなく壁にぶち当たっている気がして、もやもやしていた。
そんなもやもやが振り払えなくて、溜め息を吐いて竹刀を取り上げると──土方さんはやおら左手を顎に当てて呟いた。
「‥いや、反応はいいんだ。きっと」
「え?」
ポツリと零れた言葉の意味がわからなくて問い返せば、土方さんは私の方に向き直して言った。
「反応は頗るいいんだ。けど、まだ“勘”が養えていない」
「勘‥」
私がオウム返しに呟くと、それに軽く頷いた土方さんは懐からお手製の湿布薬を取り出して、先程小手を食らった私の左手を取った。
「如何なる時も目を見ろ。人の目は全てを物語る」
嘘偽りも、真実も。
そう言って、土方さんは私の手に湿布薬をあてがった。
心理を読んで、先を読む。これが勝負において大切な駆け引きなのだと言う。
「‥じゃあ、土方さんの目を読みます」
そう言って真っ直ぐに土方さんの目を覗けば、土方さんはキョトンとした表情を見せた。そして、やってみろとばかりに口角を上げて黙った。
「‥‥」
「‥‥」
しかし、自分で“勝負”を挑んでおきながら──一寸も経たない内に、その真っ直ぐで強い瞳に魅せられて、私は頬が熱くなるのを感じた。
「‥‥読めました」
「ほう?」
何だ、言ってみろ。と、視線を外さず土方さんに先を促されて、私は平常心を保とうとお腹の辺りの服を握って──ゆっくり口を開いた。
「‥‥‥お腹が空いた」
「それはお前の心境だろが」
──ぎゅるるる‥
図ったかのように盛大に腹の音が鳴り響いた。
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