第六話『rival』
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近藤さんのよく通る号令が道場に響きわたると、私と結希は同時に床を蹴った。
──反応がいい。
それはきっと土方さんの特訓の賜物というより、彼女の天性の才能なんだろう。
──土方さん直々の特訓なんて
どんな人物なんだろうと思っていたけれど、筋が良いことは確かだ。──そして、ひたむき。
「えぇい!」
「っと、」
色々考えていたら、不意を突かれそうになる。油断しすぎかなと思って、竹刀に込める力を強めながらふと土方さんの方を見やれば、目があった。
──私が手加減下手なのを知っていて、何故やらせたのだろう
今だってほら、力を強めすぎて打撃を受けた結希がゆらりとグラついた。
思って、もう一度土方さんの方を見やれば、それに気付いた土方さんはニヤリと不敵に笑った。
──‥あれ?
するとやっと気づいた違和感。
──あれ‥!?
「やぁっ!」
「っ‥」
どうしてだろう、決定打が打てない。なんとも捉えがたい攻撃に、初めて戸惑いを覚えた。甘く見ていただけに、その落差に汗が一筋頬を伝った。なんということだ──
「──どうだ?総司」
仕掛けた悪戯が成功した少年のように土方さんは笑って言った。
「っやり難いです!土方さん」
「だろ?」
もう一度決定打を加えに行こうとするけれど、数歩退かれてそれは叶わない。私は心臓が強く脈打つのを感じた。
それを見た土方さんは、満足したように軽く頷くと、パンパンと手を打った。
「よし、今日はこんなところでいいだろう」
その声が掛かった瞬間、結希はすっと竹刀を下ろした。そしてそのまま動くことを忘れたかのように突っ立っている。少し放心状態のようだ。
一方の私はというと──心臓がまだドキドキ言っている。
「‥‥」
「どうだった?総司」
暫く結希の方を見やっていた私は、土方さんの声に漸く反応して弾かれるように応えた。
「‥すごくやりにくかったです。強い訳ではない、剣は拙い筈なのに、──攻めにくい」
「攻めより守り。攻撃を去なすところから教えたからな」
土方さんはニヤリと笑って結希の方を見やると、少し満足げな表情をした。
「お前はいつも“武士の型”としか打ち合ってないからな、やりにくかっただろう」
「‥はい」
こんな相手、初めて出会った。こんな“型”があるのかと、私は呆けた顔でもう一度結希の方を見やった。すると結希も顔を上げて、目と目が合う。逸らせない。
まだ興奮で心臓がドキドキ言っていた。
「‥新鮮か?」
ぽん、と頭に手を置いて問いかけてくる。いつまで経っても変わらない子ども扱いがくすぐったい。いつもは抗議をするその扱いだけれど、今の私はわくわくしていた心が弾けて、頬が弛んでしまった。
「はい!」
答えると、土方さんは満足そうに笑って 静かに頷いた。いつもより柔らかい表情だ。──結希のせい?
「お前も楽しいか?結希」
問われた結希は、土方さんの言葉にやっと放心状態が解けたのか、ハッとして顔を上げた。
そして一度竹刀を握り締めていた手を何か確かめるかのように見つめてから、胸に当てて 静かに目を閉じ──深く息を吸った。それからゆっくりと目を開けると、結希は目を細めて笑った。
「はい!土方さん」
その笑顔が妙に胸に響いて、私はまた鼓動が速まるのを感じた。
【第六話 END】