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いつも
強くなりたいと思っていた
いつもいつだって
自分は弱いと知りながら
強くなりたいと思っていた
文久三年。神無月。某日──宵。見事な望月が曇り一つない夜空に輝き、その恩恵は余すところなく地上にも届く。その情景はあまりにも美しく──究極の悪条件だ。
夜は俺たちの時間だ。“不逞な輩”を誘きだし、罠に嵌めて、夜闇に紛れて“成敗”する。闇は濃ければ濃い程いい。けれど、理想通りにいかない現実に苛立ちが募る。
──しかしやらねば
好機は限られている。そしてそれは、今しかない。
俺は目の前に抱えた女の首筋に胸元に夢中になって食らいついているフリをしながら、潜む闇を睨む。月の光を浴びて、ギラギラと“銀色”が反射している。
――馬鹿だな。刃は光を集めやすい。あれだけ夜は神経を研ぎ澄ませろと言ったのに。
後で仕置きだ。と心の中でボヤいて、闇に向かって眼光を鋭くした。
──やれ、今だ
音もなく現れる人、人、人。それはどれも見知らぬ顔。けれど、そんなまんまと罠に引っ掛かった野郎共をさらに囲み込む人、人、人。
囲み込んで“潰す”なんて、俺達の常套戦法。総司達に囲まれて“袋の鼠”が怯むのを見て、ざまあみろ、とぼんやり思っていた。
「っひ、ひぃぃ‥!!」
さて、問題はコイツだ。俺がこの女に“夢中”になっているのを見計らってゴロツキ共が飛び出してきたということは、コイツが“不逞の輩”であることは間違いようがないのだが。だが、如何せん コイツは“アイツ”に似すぎているのだ。
(それもそのはず、だから俺はコイツを買い始めたのだから)
しかし、だからといって俺の刀が迷う筈がない。“鬼”の刀が迷う筈がないのだから。
怯えた女の顔を冷ややかに見て、刀を振りかぶる。
――なんだ、あまり似ていない。酷く怯えて醜く歪んだ顔。──アイツは怯えて泣くことなんてなかったから。現状を見据えて、自分にできる精一杯のことをして、泣いて――でも最後は必ず笑うんだ。
ふっと息を抜いて刀を振り下ろす。あとは対象に“ぶつかる”のを待てばいい──はずだった。
刀が躊躇いを帯びたのは、女の涙が、記憶の中のアイツのそれと重なったから。
『‥強くなりたい』
躊躇いは命取り。そんな餓鬼でも分かるような過ちを、その時の俺は起こした。
「っ土方さん‥っ!!」
極限の状況では、全てがコマ送りで感じられるという。女の怯えた顔が歪んだ笑みに豹変し、喉元で銀色の刃がギラギラと光る。気付いた総司の声が遅れて聞こえてくる。
しまった、という感情はない。一太刀と引き換えなら 致命傷を避けることは不可能ではないから。しかし下らない怪我を増やしてしまった、と場違いに溜め息を漏らそうとした──その時だった。
──斬‥
それは一瞬のこと。大きな鳥のような影が月の光を遮り、僅かだけ夜の世界が闇を取り戻した瞬間──微かな光を集めた銀色の刃が、目の前で赤い鮮血を生み出した。
そして月がその役目を思い出したかのように再び世界にその威力を強めると、俺の前に忽然と姿を現したのは 動かなくなった女。そして───
「相変わらず、苦手なんですか──」
背筋にぞくりと電気が走るほど、美しく妖艶な笑みを浮かべた
「女の涙は。──土方さん?」
あの頃の面影に、確かな自信を溢れさせた、アイツ。
--To be continued..