第四話『Light in the Dark』
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記憶を失ったはずの私の中に、確かに生まれた恐怖心。──そうだ、私の中には、確かな闇が在る──。
そして自らを守ろうとすればするほど身動きがとれなくなってしまいそうになる私に、降り注いだふたつの光。
「大丈夫か!? どこか苦しいのか!?」
襖が開かれた時、世界が開かれるのを感じた。真っ白だった世界が、ふたつの光で色づいていく。
「‥‥っ‥」
ふわりと触れた手の温もりが、布越しに伝わってきて──視界がぼやけた。
「すまなかったなァ、おミツさんに着物を借りに行っていたんだ」
背中をさすってくれていた手を止めて、ほら、と近藤さんは片腕で抱えていた木箱を開けて中を見せてくれた。色とりどりの着物たち──私の為に‥。
「‥──‥っ‥」
溢れてくる涙を堪える術を教えて欲しい。弱い涙ではなくーー弱い自分を守る為だけの力ではなく、この優しい人たちに恩を返せる力が欲しい。
刹那、切れ長の強い意志を秘めた瞳と視線が交わった。
心の奥底で、何かが弾ける感覚──
「──強くなりたい‥」
口をついて出た言葉に、二人は軽く目を見開いた。
「‥強く、なりたい」
「‥結希‥?」
繰り返し、自分に言い聞かせるように、確かめるように呟く。
そうだ、私は強くなりたかった。
誰かに優しくできる強さが
誰かを守れる力が
欲しかった
手のひらをぎゅっと握り締めて、瞼もぎゅっと閉じて──それから、今度は真っ直ぐに前を見据えた。
「‥私に剣術を教えて下さいませんか」
生きていく強さが、欲しい
突拍子もない話をした自覚はある。
近藤さんに至っては明らかに狼狽した様子で、困ったように眉根を下げている。
「‥しかし女の子が突然剣術というのも‥」
「‥強くなりたい、けど、その方法が分からないから‥。形からでも、入ってみたいんです」
そう言って伺うようにもう一人を見やれば──呆れ混じりに私を見つめる顔がそこにはあった。
そして少しだけ目を閉じたかと思うと、口元を弛めた。
「──いいだろう」
「歳!?」
「丁度いい」
そう言うと土方さんは私の布団の横まで来てドカリと座り、ヒラヒラと何かの書状を私の前に見せた。
「俺の行商と採草を手伝ってもらおうと思ってたところだ」
「え?」
書状を受け取って見ると、ーー達筆すぎて大半が読めなかったけれどーー“雇用”の二文字が読み取れた。
「お前の薬草の知識を使える仕事だ。これがあればお前の身も立てられるし、行商しながらお前の情報も探れるだろう。ここに留まってるより、何処かで知り合いに出会えるかもしれない。──その序でに剣も磨いてやるよ」
いきなりの展開に目を白黒させる。凄まじく自分を取り巻く環境が変わっていく。
言わば五里霧中の状態だったのに、全てを振り払うかのように展望が開けた気がした。
「‥だが歳、一から剣術を始めるなら、道場でしっかりやった方がいいんじゃないか?」
ここまで静かに聞いていた近藤さんが唸りながら腕を組んで口を開いた。どうやら本気で考えてくれているのが見て取れて、じんわりと胸の奥が温かくなった。
「でもコイツは俺の目を見て言った」
理由はそれで十分だ、とでも言いたげに土方さんはきっぱりと告げた。
その力強い言葉に、気付けば体中の力が抜けていた。そのことによって体中に力が入っていたことを今更知る。
ホッとあからさまに顔の緊張を解いて土方さんの真っ直ぐな目を見ると、土方さんは微かに破顔して私の頭を髪がくしゃくしゃになるくらい乱暴に撫でた。
「俺の“シゴキ”はキツいぞ」
「はい!頑張ります!」
その真っ直ぐな眼差しが、私の光だった。
“弱い”私に“生きる強さ”を教えてくれる。
あの日から
貴方が私の“光”だった。
【第四話 END】