《第四輪》
「今日は随分気が引き締まってますね」
からかうようにではなく、結構真面目な風に新米隊士に言われて、少し驚いた。ちなみに今は八番隊で巡回中。
「そ‥?」
「はい!とても凛々しいですよ」
普段なら男に“凛々しい”だとか言われてもあまり嬉しくないけれど、今日の俺は違った。なんてったって今日は‥──
「なんてったって今日は逢い引きの日ですもんね、隊長っ」
後ろから からかうように割り込んできたのは 馴染みの八番隊隊士。情報通なことでちょっと有名だ。
「おまっ‥!どこでそんな情報を‥!!」
本気で焦っている気持ちを(自分なりに)抑えて、職務質問。
「そんなぁ~、情報なんてどこにでも転がってるもんですよ、隊長っ」
はぐらかすつもりだろうが そうはいかない。大いなる問題を含んでいる発言に、俺はその隊士の首に腕を回した。
「お前全部吐かなきゃクビにすんぞ、クビ」
隊士の首に親指を立て 横に引く動作をして、暗に『頭と体がサヨウナラしちゃうぞ』と表現すると、ソイツは引きつった苦笑いを見せた。
冷静に考えれば そんなの一隊長には越権行為な訳だけど、人間切羽詰まると判断が鈍るもんだ。
「この前非番の日に隊長が女性と歩いていたのを目撃したのを根拠に、今日は朝から隊長の機嫌がやけに良かったことから推測シマシタ‥」
観念して白状した平隊士君はガクリとうなだれた。首の締め付けがキツすぎたことに今更気付いて、慌てて束縛を解く。
取りあえず新八っつぁんや佐之が情報源じゃなかったことに一息吐いた。
まぁ、あの二人がそんな無粋なことをする筈がないけれど。
(そう信じている自分がいるから)
「まぁ、いいや。それより 早く帰んぞ」
「はい!」
「愛しい愛しい茶屋の彼女が待ってますもんね、隊長っ」
学習能力の無い平隊士君は、京の綺麗な石畳が大好きらしい。暫く口付けをしてヨロシクしたまま動かなかった。
逸る気持ちに抑制をかけて、俺はちゃんと屯所に帰るまで警備を怠らなかった。なんてったって、俺は隊長だから。隊員達の模範になるよう、最後まで私用は持ち込みませんとも。
だからこうして、隊長のお勤め、土方さんへの本日の報告も怠らない。
「───で‥、特に変わったことは‥」
「‥‥‥藤堂。」
「はい?」
真面目にご報告してたら、土方さんに言葉を遮られた。
「‥‥もう下がれ」
「えっ、何でですか!」
「顔が弛みっぱなしだバカヤロウ」
はっとして 慌てて顔に手を当てる。真面目に真一文字になっている筈の口元が、当初の予想を裏切って 見事に上がっているではないか。
「真面目に仕事やってきたのは分かった、から、もう行け」
見てると呆れる、と付け加えた土方さんは、軽く溜め息を吐いた。
むずむずと 俺を抑制してた何かが外れて、俺はすっくと立ち上がった。
身が、軽い。
「じゃあ、失礼しまっす!」
ついでに『行ってきます!』と付け加えて廊下へ飛び出ると、『廊下は走るな!』と後ろから叱咤された。
「‥春ですねェ、土方さん」
「あーもうウルサくてかなわねぇ」
「まぁまぁ」
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