《第四輪》



この激動の時代に

この武士が生き難い時代に


君と巡り会ったということ
君と巡り会えたということ


運命とか必然とかなんて
わからないから


全身全霊で感謝して
全身全霊で君を愛す

等身大の自分でいたい

と────願う







《花、時々キミ/第四輪》







 澄みきった空の下、手には小さな麻の袋と、使わなくなった杓文字を持って、軽い足取りで 川沿いを行く。
 あの人はもう来ているだろうか。約束の刻限にはまだ一寸早いから、長く待たせている事はないだろうけど。


 少し走ってみようか?
(一刻でも早くあの人に会う為に)

 ゆっくり歩いていこうか?
(今のこの幸福感を噛み締める為に)


 矛盾した二つの願望に、思わず笑みが零れた。
 なんだかつまり、とても夢中になっている自分に気付くと、照れくさくて、少し馬鹿にも見えて、でも───嫌いじゃない。
 顔の筋肉が言うことを聞いてくれない中、扱いに困る感情を持て余していると、いつの間にか約束の場所に着いてしまっていた。

 彼の姿は、まだ無い。
 それを確認すると、土手を下りて “花畑”へ足を踏み入れる。花の摘まれた単葉植物の元へ歩み寄ると、腰を下ろし、そしてそっとその茎に触れた。

(どんな気持ちで花を摘んだのかな‥)

 あの日の後、色々考えて 落ち込んで この花畑に足を運んだ彼が、そっとこの花──白百合に手を添えただろう姿を想像する。

 謝罪の気持ちでいっぱいだったのだろうか。──でも、わざわざ花を届けてくれるなんて。(わざわざ探し出して、摘んでくれるなんて)

 少しは(他意がないにしろ)好意を持ってくれたのだろうか。


 そんな風に思考を巡らせていると、最後に『好意』という言葉が 何故か頭に張り付いた。

(何でーーー!?)

 有り得ない結論を叩き出した 都合の良い自分の頭を叱咤しつつ、その堪らなく甘い(そして淡い)期待に、頬が熱を帯びるのを感じた。

(重症‥ダ‥)


 こんな顔では彼に会えない、と思っていた矢先、神サマは悪戯に微笑んだ。


「薫ちゃん!」


 呼ばれた自分の名に、私の心臓は過敏に反応。 鼓動の音が耳に張り付いてしまいそう。

 ゆっくり顔を上げると、逆光の中に、彼の姿が浮かんだ。




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