《花、時々キミ》epilogue



それは見たこともない世界

それは見たこともない風景


鼻孔を擽る芳香は
たった一つの
真っ白な花を想起させる


そして時々 心を過ぎるのは

どこか懐かしい
笑顔の“キミ”









花、時々キミ epilogue

『晴れ、のち キミ』










 平成二十一年。先輩に連れられて、一軒の茶屋を訪れる。茶屋は古風な趣のある外装で。普段なら気に入りそうな所だった。


「‥何で合宿沖縄じゃないんっすかー‥」


 けれど俺はその時、とても不機嫌で。口をついて出るのは、悪態ばっかり。


「辛気くさそうな店‥」


 言って、何故か「しまった」と思った。──何故かは、分からないけど。


 暖簾を押し上げ、入り口の戸に手を掛ける。
 開く、戸。開ける、視界。目に映る、色。白。中に点在する、大輪の、白。

 鼻を掠めた“薫り”に、胸を貫かれる。愛おしい、痛み。




「いらっしゃいませ」



『“薫り”は、記憶に残るんですって』




 咲いた大輪の白百合を、確かに、俺は、見た。




「‥‥‥ただいま‥」



 知らず零れた言葉に、彼女が笑った。







花、時々キミ (END)
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