《世界へ続く航路》




 後ろ傷を負ったとき、全てが弾け飛んだ気がした。
 全てが真っ白になって、色を失おうとしていく世界──

 けれど


 けれど、違った




『何故、“武士”は逃げてはいけないんですか‥。後ろ傷を負ったって、敵から逃げたって‥‥──生きていてくれさえすれば、何だって‥っ』




 真っ白で、全てが消え失せたと 思った。けれど、違った

 違ったんだ。


 その白こそが、ただ一つ残った答えだった。



 燃えるように、死ぬほど背中は痛かった。きっと死ぬのだろうと思った。

 けれど、

 このまま死んでなるものかと。死に甘んじてなるものかと。持てる力をもって全てに抗った。

 あの時、世界の全てがキミだった。







「俺‥‥生きてる‥?」


 完全に、目を開いて、キミを瞳いっぱいに映して、声を震わせた。
 情けないほど体が震えて、瞳に涙が溢れる。そうしたら、震える俺の手を 同じように震える君の華奢な手が 包み込んだ。


「生きてます‥生きてますよ‥藤堂さん」


 震える君の手のひらを、強く強く、握り返す。
 次第に温もりを取り戻す二人の手のひら。


──生きてる
──生きてる


 涙が止まらなかった。



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