《振り向けば、花道》




 瞬間、残された感覚が、小さな奇跡を捉えた。
 あまりにも小さな、愛おしい奇跡。


──百合の‥香り‥‥


 確かに百合の香り、だった。君といつか約束した、頑なだった蕾。

 君の笑顔が花開く。

 そんな香りが、俺の元へ‥──




「記憶って、五感と共に蓄積されるんだそうです」

「うん?」

「その中でも、香りっていうのは強く関わっていて。──
 それで、私の両親は『この子に出逢った全ての人々が、幸福な気持ちや思い出を その名を呼ぶ度思い出せますように』っていう願いを込めて“薫”、と名付けたそうです」




 薫りが俺の記憶に訴えかける。


 好きだよ
 幸せだったよ


 温かな、気持ち。




 薫る
 香る

 君の笑顔が


 希望を乗せて

 君の香りが



『“薫”‥‥良い名前だ』




 君の薫りが
 俺の生に、存在に
 意義を与えた



 俺が求め続けたものだった

 俺の、宝物



 今、心から思うよ



 君に会えて良かった



 君が 好きだよ








【振り向けば、花道--終】
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