《第三輪》
大通りを真っ直ぐ進み、少し外れに近付く頃、一件の古風な茶店が見えてくる。
俺が好むような、小さくて可愛らしい店。此処が、目的地。
店の前に立って、一呼吸置く。
(髪型、良し。)
(服装、良し。)
(心の準備、良し!)
半分勢いで戸口に手を掛ける。気分は、仕事帰りの“夫”。
‥ごめん、ちょっと言い過ぎた。
「ただいま!」
屯所という“家”以外、居場所を持たない俺達。そんな俺にとって、初めて出来た“居場所”。そして、そう在って欲しいと願って、俺は敢えてこの挨拶を選ぶ。
「此処は私の家じゃい」
声のする方を見遣ると、そこにいたのは仁王立ちしたこの店の主。
──出たな!しわくちゃババ‥
「誰がしわくちゃババァじゃ馬鹿者」
流石何十年も妖力を蓄えてきたその眼力には、全てが見透かされているようだ。
「この店をお前のものにした覚えは無いし、お前を婿に呼んだ覚えも無いわ!」
「そんなぁ~婿だなんて話が早すぎるよ~!まだ手も繋いだことがないのに!」
ふざけてキャーキャー言ってみると、店主は思いっきり頭をぶってきた。
「馬鹿たれ。」
お婆の容赦ない手刀に 半泣きで頭を押さえていると、視界の隅で薫ちゃんが笑っているのが見えた。
俺の視線に気付くと、薫ちゃんはにっこり微笑んでくれた。
「いらっしゃいませ、藤堂さん」
──あぁもうこの笑顔だけで生きていける、と思った。
薫ちゃんの笑顔に魅入っていると、再びお婆に頭を小突かれた。
要件を忘れる所だった。
「店主!薫ちゃん貰っていい?」
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