《第十四輪》




 それは、不意打ちだった。


「そうだ。お前は本当は俺なんかよりずっと強くて、仲間思いで、めちゃくちゃ良い奴だ」


 不覚にも一気に熱が込み上げてきて、溢れてしまわないようにと 俺は唇を噛み締め 息を止めた。

 滲む、視界。

 揺らぐ、世界。






「だからお前は生きるんだ」





 一筋の、光。

 世界に差す、一筋の、光。




「生きる資格だとかなんだとか、在るのかなんて知らないけど。もし在るんだとして、お前にそれが無いんだったら 他の誰が持てるってんだ。──それなら俺にだってきっと無ぇよ。」



 少し荒っぽいぐらいの、等身大の言葉が俺の背中を力強く叩く。


 力強く、胸を 叩く





「でも俺は生きる。あぁ生きるさ生きてみせるさ!──生きたいから。
 じゃあ何で俺が生きてお前が生きちゃいけねぇんだ!? 誰が決めたんだそんなこと!──知ったこっちゃねぇよ‥!!」



 言う、瞳は 真っ直ぐで。
 紡がれる言葉、一つ一つが、千切れた心の 一欠片一欠片に、微かな痛みを伴う 癒やしを与えて。

 全てが俺の心を揺さぶる。
 全てが俺の背中を押す。




「生きる資格なんて関係ねぇ!!」



──生きていてくれさえすれば、何だって‥っ




「生きたいと言え!! 平助っ!!」


『藤堂さん』
『それなら、命も志と等しく大切だ、と』

『言って下さい』




 その真っ直ぐな言葉が、その真っ直ぐな瞳が、愛しい人と重なって──溢れた心が、優しく染み入って。
 とうとう俺は 泣き叫ぶ心を解放した。


 長い長い、平行線 が交わった。





 ああ、俺──







   生 き た い。








「‥‥良いのかな。」

「良いんだ。」

「許されるのかな‥」

「誰が許さないのさ。」

「でも‥」

「じゃあ、俺が許す」

「ははっ、心強いね」


 とても久方ぶりに、自然に、優しく、笑えた。


 それはあまりにも長かった。

 長い、道のりだった。

 あまりにも簡潔なその答え。それに辿り着くのに、どうしてこんなに遠回りしたのだろう。

 でも、それも無駄ではなかったのだ、と。
 必要だったのだ、と。

 泣きそうなほど、言い聞かせる俺に、



「‥ねぇ、これって“逃げ”じゃない‥?」

「違う。逃げてるんじゃない。これは──」




 友は、言う。











「勇気の第一歩だ」





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