《第十三輪》




 それはもしかしたら、相手の想いを無視して自分の気持ちを押し付ける 自分勝手な言葉なのかもしれなかった。

 それでも



「‥‥好き‥っ」

「‥‥っ」



 それでも
 もう 偽ることは出来ない



「‥好き‥な‥です‥っ」

「‥っ薫ちゃ‥っ」



 だから、お願い。

 いつか
 二人で約束したように。

 一緒に 海を越えて。

 平和の地 へ。


 行 こ う──?





 募る想いは抑えきれず、溢れて。貴方に届けと、祈り続けた──けれど


「藤堂さ‥」
「‥お願い‥っ 薫ちゃん‥」


 抱き締める力が強くなって、藤堂さんは絞り出すように声を漏らした。



「お願い‥だから‥“嫌い”って‥言ってよ‥っ」





 藤堂さんの言っている意味が、分からなくて、(理解、したくなくて) 瞬間 私は息を止めた。

 今、何と──?



「‥藤ど「お願い、だから“嫌い”って‥」

「‥い、や‥っ!!」


 もう自分の気持ちに嘘は吐けない。
 だって、それは

 “別れの言葉”だ



「嫌です‥っ 藤堂さん‥!」

「‥お願いだよ‥っ 薫ちゃん‥」

「‥‥っ‥‥」


 嗚咽が漏れて、言葉が続かない。視界は涙で滲んで 顔も上げられなくて──藤堂さんの瞳を見ることが出来なかった。


「っ‥‥ぅ‥っ」

「‥それなら、せめて」


 それでも、私が顔を埋めた藤堂さんの懐から 花の香りがして──記憶が過って── 胸が掻きむしられた。




「せめて、──“好きだった”‥と‥っ」





 ねぇ、そうすれば貴方は救われるのですか。苦しみから解放されるのですか──?

 ねぇ、私は貴方の事が好きだから──愛おしいから──‥




 弾き出された答えに、一瞬だけ 涙が止まった。











「──‥好き‥‥でし、た‥‥」











 止まっていた涙が一雫頬を伝って流れると、温かい縛めに力が込められ、言葉が 添えられた。








『‥っありがとう‥』

『俺も‥‥
 “好き”‥‥だった‥よ‥っ‥』









 温かな縛めが解け、花の香りが鼻を掠めて── 夕闇に消えていった。







――――
想いを無かったことになどできないけれど、それを“過去のもの”にしてしまうことほど苦しい事は無いのかもしれない。
今も尚、在り続けているのに‥

――――
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