《第十三輪》
あのまま、今日は店を閉めた。でも、それだけだ。お祖母ちゃんには“警告”も伝えていない。
(「このまま、私は‥‥」)
行ってしまってもいいの?
本当に‥?
『ただいま!』
『店主!薫ちゃん貰っていい?』
『可愛い! かーわーいーぃ!』
『俺達からのささやかな贈り物。受け取ってくれる?』
優しくて、柔らかくて、温かくて、幸せをくれる、貴方の笑顔が、離れない。
離れないよ。
答えを出すのが怖くて、どうすればいいのか分からなくて──どうしようもない不安感を隠すように、私は膝を抱き寄せた。
カサッ‥、という 音がした。
視界の隅に折り畳まれた“白”が映ったのは、幻覚じゃない。
『待ってて。絶対に連れていってみせるから』
『純を、見に行こう』
今は遠き、あの幸せな日。不器用な呼び出し。
あぁ、私は知っている。この格子窓をすり抜けてきたモノが何かを。
震える手で“ソレ”に触れると、暗がりの中でも分かってしまう文字。
【去れ。江戸へ】
仮令、綴られていたのが無機質な言葉だって。無機質に見せようとしていたって。──滲む温かさは消せやしない。
だってこの、少し不器用で、でも繊細な文字は‥──
間違う訳が、ない。
もつれる足を叱咤して、不器用な投げ文を握り締めて 立ち上がれば──文からは、花の香りがした。
乙女桔梗、寒菊、雪柳、蓮華草、
──百合‥
ねぇ、貴方に
伝えていない言葉があったの
「‥っ藤堂さん‥っ!!」
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