《第十三輪》



 俺の“誠”とは、一体何だろう。何なのだろう。


『場所は、大通りの外れにある、小さい茶屋だ』


 自分に問い掛け、問い詰め、いくら待ってみても 答えは帰ってこない。


『思いもよらない機会だ。もしかすると伊東どもを芋蔓式に引きずり出せるかもしれねぇ』


 ただ、平助と薫ちゃんの幸せそうな笑顔が、浮かんでは消えていく。

 俺は第三者だった。けれど、幸せな二人を見ていて、思ったんだ。


 “守りたい”と



『突入の日は、追って沙汰する』


 この気持ちだって、“誠”なんじゃないのか?

 どちらが本当で、どちらが偽物?
 どちらかが本物で、どちらかが偽物じゃなきゃいけないのか?


 “誠”とは、何だ──?





 そんな時だった。俺が悩み悩んで、雲の上を歩いているような感覚に陥っていた時。声は届かない。通りを挟んで あっちとこっちに分かれている。そんな距離感。
 平助と、瞳が合った。



(「なぁ、お前の“誠”って、何?」)


 薄ぼんやりとした意識の中で、考えた。皮肉とかそういうのじゃない。ただ、答えを聞きたかった。

 隊を抜けたお前なら──大切なモノがあるお前なら──俺の求めた答えを知っているんじゃないかと、期待してたのかもしれない。


(「ねぇ、お前の“誠”って──」)



 問い掛けかけた、その時。平助の真っ直ぐな眼差しに、射抜かれた。
 そして伝わってくる“言葉”。



(「お願い、薫ちゃんを─」)



 縋るような、それでいてしっかりとした、真っ直ぐな“意志”。

 ああ、そうか。
 それがお前の“誠”──

 それがもう一つの“誠”の形──


 ストンと 答えが降りてきた。そんな感覚。
 変に安心感があって、俺は平助の瞳を見返した。


(「俺は、俺のしたいようにするさ」)


 ずっと掲げてきた“誠”
 今でも疑ってはいない。


(「けど、」)


 “守りたい”
 これもまた、“誠”なのだと 分かったから。


(「“お前”はどうしたいんだよ─?」)



 真っ直ぐ瞳を合わせて、逸らさない。そんな瞬間が少し続いて、平助は ゆっくりと頭を下げた。


(「俺は、俺に出来る事を」)



 しっかりと伝わってきた“誠”が眩しくて、俺は目を細めた。

 脱ぎ捨てて行こう。今は、一つの“誠”を背負った衣を脱いで、“友”との“誠”だけを背負って──


 微かに漏れた笑みを隠すように背を向けると、声を介してでも 瞳を介してでもなく、心に届くよう、伝えた。



『本当に、馬鹿へー』



 お前の“誠”も大概、‥‥すげーよ。




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