《第三輪》
そう それは
落下するぼた餅のように
俺は加速度増して
恋に落ちていった
《花、時々キミ/第三輪》
「何ソレ。“棚からぼた餅”って言いたいワケ?」
「何だ何だ!? 旨いもんでも見つけたのか平助!?」
此処は屯所。道場で思いっきり汗をかいたあとに、井戸端で水を浴びているところだ。
新八っつぁんに少しのろけ話──まだ何も進展してないけど──をしていたら、左之が暢気に入ってきた。そんな感じ。
「旨いもん見つけたなら俺にも食わせろよ~」
「「いやいや食べちゃダメ!!」」
左之の爆弾発言に、声を揃えて必死で言う。
バカって時に怖い、と二人で悟った。
「“棚ボタ”なんかじゃないよ~新八っつぁん」
「じゃあ何サ」
「うーん‥」
“ぼた餅”を使った例文を考えてみるが、なかなか思い浮かばない。
(そもそもなんで“ぼた餅”なんて使ったのか‥)
「だから、あーつまり、言い換えるなら、ぼた餅が俺で、花のように可愛らしい薫ちゃんは棚から落ちていく哀れな俺の罪を菩薩のような笑みを湛えながら両腕を広げて受け止めてくれてぼた餅の俺はまるっとするっと救われたと言えば妥当かなぁなんて‥」
「‥お前自分で言ってて分かんなくなってるダロ」
えへへ、と笑うと、新八っつぁんは額にデコピンを食らわせてきた。
「いてっ」
「にへらにへら笑うな!」
「だぁってさー」
言われるそばから口元が弛んでしまう。でもだってしょうがない。
「だって、初めてなんだ、こんな気持ち」
そう言葉に出すと少し照れくさい。けれどそれでもはぐらかさずに言うと、新八っつぁんは一瞬驚いた顔をして、それから呆れたように笑った。
「バカだね、お前も」
「へへっ」
軽く新八っつぁんに頭を叩かれると、その部分が少し温かく感じた。
──『頑張れ』ってこと、かな
「‥で、お前は何に頭抱えてんの、左之」
言われて左之の方を向くと、確かに頭を抱えている。
すると、左之は今までに見たことがないほど物凄い真面目顔で言う。
「いや、結局“棚ぼた”の話はどうなったんだ?」
一瞬の、間。
そして 弾けたように笑い出す。
「あっはははっ! お前っははははっ」
腹の底から笑うと引き起こる軽い呼吸困難。それがまた笑いを招いて、可笑しな悪循環だ。
一方新八っつぁんは突っ込む気力も無くしたらしい。
「お前は正真正銘のバカなのな‥」
そんな、笑い声の絶えない、幸せな日常のひとコマ。
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