《第十三輪》



何度朝を迎えても
何度月を見送っても

何度桜が咲いても
何度季節が巡っても

開かぬ頑なな蕾があるように

俺達は
たった一片の言の葉を
抱き、抱え、包み込んで

伝える術を知らなかった


ねぇ
君に伝えたい
言葉があったんだ








《第十三輪》








 隊務を遂行中の新八っつぁんと瞳が合ったのは、俺が悩み悩んで、雲の上を歩いているような感覚に陥っていた時。声は届かない。通りを挟んで あっちとこっちに分かれている。そんな距離感。

 駄目だと、分かっていた。“新撰組”の新八っつぁんに頼んでは。

 それでも、縋るしかなかった。──“友”に
 瞳で訴えて、縋って、哀願した。


(「お願い、薫ちゃんを─」)


 俺が瞳で訴える事が、新八っつぁんに伝わらない筈が無くて。無言のまま、その目を少し細めたのが分かった。
 そして、聞こえてくる 懐かしい“声”。


──俺は、俺のしたいようにするさ

──けど、


 何故言葉を介さずに伝わるのかなんて、分からないけれど。


──“お前”は、どうしたいんだよ─?


 新八っつぁんが瞳で訴える事が、俺に伝わらない訳が無くて。
 俺が静かに頭を下げると、新八っつぁんは 隊服を乱暴に脱いで、背を向け 走り出した。



『本当に、馬鹿へー』



 少し乱暴に、優しい、言葉を介さない温かな声が 聞こえたような気がした。





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