《第十二輪》



 薄く開いた瞼の向こうから、目映いほどの朝日が差し込んできた。

──朝か‥

 結局、眠ることは出来なかった。
 一度瞼を閉じて、大きく息を吐くと 軽く頭を振る。


「‥ぁ‥つっ‥」


 すると、頭が痛んで 思わず声をあげた。
 一晩かけて情報整理をしたが、それでも混乱は解消しきれていない。


 薫ちゃんは、“此処”の“協力者”だった──?

 一番の衝撃だった、けれど。



『‥‥私の父は‥、志を通して、死にました』

『何故、“武士”は逃げてはいけないんですか‥。後ろ傷を負ったって、敵から逃げたって‥‥──生きていてくれさえすれば、何だって‥っ』




 いつかの彼女の言葉。暗示していることはいくつもあったのかもしれない。



『そうなんだ。じゃあ、何で京へ上ってきたの?』

『あー‥、父の“仕事”で』




 あの言葉は、あの痛々しい笑顔は、そういう意味だったのか、と。今になって知る。(君の痛みを、今になって知る)


 きっと彼女は俺が“此処”にいることを知らない。まだ“新撰組”にいるのだと思っているからこそ──伊東先生に楯突いた。

 そう思える自分に、そう疑わない烏滸がましい自分に、呆れた。──けれど、そう信じてしまう自分を是とする自分がいた。



「‥‥は‥っ」


 愚かな自分に笑いが零れる。(でもどうしてだろう。昨日までの憂さが少し軽くなった気がするんだ)


 何か、俺が“此処”にいるからこそ、君の為に出来ることがあるんじゃないかと思ったんだ。





「なぁ、聞いたか?」


 一人、昨日と同じ窓際から外を眺め 昨日とは違う想いに耽っていると、隅に座って鉢金を調整していた小柄な男が顔を上げ、事も無げに軽い噂話を交わすように言った。それに対する 髪を結い上げ右頬に絆創膏を貼った男は、如何にも興味深々といった表情で答えた。


「何を何を?」

「ほら、昨日楯突いてきた女の店のことだよ」




 男が吐いた言葉が、脳天から足先まで貫き突き抜けた。痺れるような感覚に、思わず目が見開かれるのが分かる。



「あそこ、新撰組に尻尾掴まれて、いつ検挙されてもおかしくないらしいぜ」

「うわー、ご愁傷様」




 背筋に冷水が伝う感覚。体中を巡る血液が凍りついたようで、体が硬直して動かない。動かせない。
 でも、頭だけは凄まじい速度で情報を処理しているようで、頭と体と心が全くばらばらで──吐き気がした。




「まぁ、裏切り者は自業自得ってことだ」





 その一言で、頭と体と心は、一つの答えを導き出した。







嗚呼、ねぇ

この暗闇の中で

俺が君の為に出来ること

俺が“此処”にいる意味

たった一つの光が
見つかった気がするんだ



(蝙蝠の存在意義が
 こんな事にあったなんて)







――――
(内容が暗すぎてすみません;)

“蝙蝠”は在るべき所を見つけたのかもしれない。
仮令、全てを敵に回そうとも─

――――
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