《第十二輪》



 伊東先生に会わなければ、と思った。“こっち”にいる覚悟を決めるなら。

──でも、そんな覚悟なんて

 あるのだろうか。この俺に?


 どうすればいいのか分からなくなって、揺らいだ覚悟を握り締めて、俺は伊東先生の部屋の前で立ち尽くした。




「‥‥も‥、‥関わ‥で‥‥さい‥っ」



 微かに聞こえた声に反応して、俯く面が瞬時に上がる。

(伊東先生の部屋から‥声‥)

 声がすることが問題なんじゃない。そうじゃ、なくて。


(嘘だ。嘘だ。嘘だ。)


 望みと甘えが生み出す産物だと、幻聴だと──頭の中で、自分に繰り返し言い聞かす。
(そして、全力でそれを全否定する自分がいることにも気付いていた)



「もう私達のことは放っておいて‥!!」


 耳に馴染んだ優しい声が、愛しい声が、今まで聞いたことのないほど荒いでいた。




4/6ページ
スキ