《第十二輪》
伊東先生に会わなければ、と思った。“こっち”にいる覚悟を決めるなら。
──でも、そんな覚悟なんて
あるのだろうか。この俺に?
どうすればいいのか分からなくなって、揺らいだ覚悟を握り締めて、俺は伊東先生の部屋の前で立ち尽くした。
「‥‥も‥、‥関わ‥で‥‥さい‥っ」
微かに聞こえた声に反応して、俯く面が瞬時に上がる。
(伊東先生の部屋から‥声‥)
声がすることが問題なんじゃない。そうじゃ、なくて。
(嘘だ。嘘だ。嘘だ。)
望みと甘えが生み出す産物だと、幻聴だと──頭の中で、自分に繰り返し言い聞かす。
(そして、全力でそれを全否定する自分がいることにも気付いていた)
「もう私達のことは放っておいて‥!!」
耳に馴染んだ優しい声が、愛しい声が、今まで聞いたことのないほど荒いでいた。
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