《第十一輪》



 知っていた。
 知っていたんだ。

 知ってるよ。君の優しさ。
 知ってるよ。君の温かさ。

 知っていた、のに。


「──‥薫、ちゃん‥」


 君がいつまでも待っていることを。

 冷たい雨の中、君は木の陰に身を寄せてうずくまっていた。


「‥‥っ‥」


 分かっていたはずなのに。何故俺はすぐに来ることができなかったのだろう。

 やるべきことも、──“幸せ”の見つけ方も、分かっていたはずなのに。


「‥っ薫ちゃん‥っ!!」


 一体どれほどの時間雨に打たれていたのか。君は反応を見せない。


 君を失いたくないから、離れていったはずなのに。どうして俺はいつも無力なんだろう。愚かなんだろう。


「薫ちゃん‥っ!!」


 堪えきれなくて、その肩を抱き寄せた。
 躊躇したのは、一瞬。


 君に触れるのを躊躇ったのは俺。
 怖くて、触れたら胸に痛みを伴うのも俺。

 この痛みは俺のもの。
 この痛みは、俺の罪。



 それなら、何も怖いものなどない。俺が恐れるものなどない。

 君は誰にも毒されない。気高い人だから。
 俺の手なんかじゃ、毒されはしない。


 この痛みが罪なら、俺は全てを受け入れよう。




 震える手でそっと頬に触れると、確かに感じる熱。でも、それは普通じゃなかった。


(「! 熱がある‥っ」)


 考えるより先に、君を抱えて走り出していた。

 視界の端に、白百合の純白を捉えながら。




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