《第十輪》




 今、何と言った‥?


 拒絶、サレタ。


 知らない、と 貴方は。



 血の気の引いた頭は、如何なる答えも反応も見せることができない。ただ、ただ、瞳を見開くだけ。



 私ノ知ッテイル藤堂サンハ、何処‥?


──いいえ、この瞳の奥の優しさは、見紛うことなく彼のもの。


 ソレナラ、何故、知ラナイ、ト


──それは‥




 自問自答したその先に、答えは、あった。

 停止した脳が、氷が溶けるように動きはじめる。




「藤堂さんは口が悪いんじゃなくて、思ったことを素直に言ってしまうんですよ、きっと」



 いつかの記憶が、蘇る。



「それは、周りに ありのままを受け止めてくれる人がいるからなんですね。だから藤堂さんの言葉には偽りがなくて、」



「真っ直ぐなんだ。」









 藤堂さんは今、私の瞳を見ていない。
 真っ直ぐに、見ていない。


 それの意味する事に辿り着いて、思わず 瞼が熱を帯びた。
 可笑しな安心感が胸を支配する。

 全てを隠すように、私は笑ってみせた。



「“いいえ”じゃない限り、否定じゃないですね」

「へ‥」

「今の藤堂さんの言葉は、何か 隠してる。だって真っ直ぐに目を見て下さってないですもの」


 ね?、と強がって、貴方の瞳を真っ直ぐに見る。
 少しだけ瞳を合わせた後、フイと逸らされてしまうけれど───もう、逃げない。

 貴方は何か、隠している。



「お元気でしたか? お店にもぱったりいらっしゃらなくなったから、気になっていたんです」


 少しでも会話を長引かせようと続ける私の声は──それでもやはり震えていた。
 そして、言いたい 問いたい肝心な事が、出てこない。

(‥意気地なし)



 ねぇ、何故居なくなってしまったの。

 ねぇ、何があったの。

 ねぇ、何故そんな顔をしているの───



 貴方に見せる笑顔とは裏腹に、私の心の中は真っ暗だった。
 押し寄せる数多の疑問が、喉につっかえて出て来ない。

 ねぇ、泣いて縋れば答えてくれますか。また会うと約束してくれますか。痛みを教えてくれますか──


 わからない、から。私は無意味な言葉の羅列を口にする。


「──そうだ、藤堂さん」

「ん‥?」



 そして、我知らず───核心に触れた。



「よかったらまたお店に来て下さい。山南さんも‥───」


 “一緒に”と続けようとして──出来なかった。藤堂さんが、抱き締めてきたから。

 とても強い力で抱き締められる。けれど、その腕は体は震えている。


 一体どうしたのか考える前に

 請い願った貴方の腕の中の喜びより先に

 頭の中に浮かんだ思考







 痩せた。







 貴方は、痩せた。悲しい程に痩せてしまった。以前感じた柔らかな力強さはなく、痩せてしまった。
 涙が溢れてくる。


 ねぇ、何があったの。


 遂に勇気を振り絞って声にしようとした、その時。


──ドンッ‥


 私を抱く貴方の腕は突如、私を突き放した。



 背を向けて走り出す。


 待って。

 待って。

 待って。



「藤堂さん‥っ!!!」



 お願い。待って。

 私の言葉は、貴方に届くだろうか。


「明日‥!! 以前と同じように待ってます‥っ!! 貴方が来るまで、私、ずっと待ってますから‥っ!」



 でも
 私の言葉は、貴方に届くと信じています。
(だって、貴方の腕はまだ私を優しく抱いてくれた)






 ねぇ、貴方に伝えたい言葉があるの。
(例え、拒絶されようとも)






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ここで序章に繋がりました。(=回想終了)
それぞれの視点によって違う見方。‥‥難しい。

ラストに向けて、動きます。

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