《第十輪》
張り裂けそうな心臓を鎮められない。無理だよ。だって、あんなに請い願っていた瞬間なんだ。
震える唇を、全神経で、動かす。
「──‥ぁ‥‥」
声が、出ない。
拒絶の言葉が怖かった。拒絶されるのが怖かった。
臆病な私がせめても自然に振る舞おうとして、言葉が震える。──だって、無理だよ──
「‥‥ぁ、‥れ‥、と‥どう、‥さん‥?」
だって、貴方の姿を見たら、──貴方の名を口にすれば──色んな感情が溢れてくる。
偶然を装うことなんて。平静を装うことなんて。できない。
自然な言葉なんて、かけられない。
貴方の歩みが止まる。
肩が一瞬震えたのが見えて、私も少し身じろいだ。
──拒絶、シナイデ‥
心の中で叫び、訴えて、貴方の動作を待つ。この間が 怖くて、逃げ出してしまいたかった。
貴方は此方に振り返らない。
「‥っ」
どこにそんな勇気があったのだろう。私は、逃げるどころか 藤堂さんの前へと歩み寄り、そして ──瞳を合わせた。
目と目が合った瞬間、心臓が壊れてしまうのではないかと思った。
「藤堂さん‥ですよね‥!? 私、表通りの茶屋の者、です‥!」
覚エテイマスカ?
なんて、白々しい言葉。
なんて、他人行儀な言葉。
──だって、無理だよ。
貴方に拒絶されたくない。
回らない頭が、同じ言葉を繰り返す。回らない頭が、無意味な言葉の羅列を口にさせる。
そして、空回りする脳内は、貴方の言葉で一気に凍り付かされた。
「さぁ‥?」
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