《第十輪》



 肌を刺すような外気温に、思わず身じろぎした。霜月ともなると、次第に寒くなっていくのも分かるけれど、この日は特に寒かった。


 身を縮こまらせながら早足で進むと、滅多に訪れない陶器屋が見えてくる。人の良さそうな店主が顔を出して、注文してあった器を見せてもらう。

 色も形も申し分なくて、代金を出そうとした───その時だった。








「‥‥ぇ‥」








 息をするのも、忘れた。

 全身の神経が逆立った。

 衝撃と共に生じたのは、大量の疑問符。


 何で分かったんだろう。
(こんな人混みの中で)

 何で此処にいるのだろう。
(今までは、一度も‥)

 何でそんなに、弱い。
(その背中が、余りにも小さい)

 何でこんな偶然が。
(神様の悪戯だろうか)


 二年もの歳月、請い願った“瞬間”。諦めきれなかった“瞬間”。
 実現した、今という“瞬間”。


 気付いたら、走り出していた。




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