《第十輪》



貴方がいない春を
何度見送ったことだろう


過ぎ去った日々を
“過去”と人は言うけれど

私の胸の中で あの美しい日々は

“今”尚
輝き在り続けているのに








《花、時々キミ/第十輪》







 季節は巡り、世界は少しずつ様相を変える。
 移ろい行く世界に取り残された気持ちでいたのは、───少しの間だけだった。

 そんな事が、悲しい“慣れ”が、私にとっては胸を刺す悲しい痛みとなっていたけれど、


『生きているんだ。当たり前だろう』


 お祖母ちゃんに、諭され、堰を切ったように泣いた。

 襲い来る悲しい現実に堪えきれなくて──それでも優しい思い出は、この“想い”は、捨てきれなくて──ただただ、泣いた。


 そして、前を向くことの辛さと勇気を、知った。

 月日がこの痛みを癒してくれるとは思わなかったけれど、後ろを向いては生きて行けなかったから。





──藤堂さんがいなくなってから、二年経つ。


 あれから“純”は、一度も咲かない。








「‥ちゃんと元気出してよー‥」


 あの時、“純”は蕾を落とした。ポトリ、と大きな蕾を。

 それ以降“純”は蕾をつけても 花は咲かせない。咲く前に何らかの原因で蕾を落としてしまう。


「‥今度こそ、咲いてよ」


 再び蕾をつけた“純”に、縋るように呟けば、それは風に靡いて揺れた。
 久しぶりに、白百合の香りがした。








 寄り道をする為に店を空けた訳ではない。気を取り直して、お祖母ちゃんに言付かっているお遣いを達成する為に立ち上がり、着物に付いた枯れ葉を払った。


「じゃあね、“純”」


 白百合の香りに思わず目を細めると、少し満ち足りた気分で“花畑”を後にした。




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