《第八輪》
最悪だ。
普段は何もないくせに、今日に限って“標的”を見つけてしまうなんて。
歯がゆくて、苛ついて。当たり散らすように“標的”に向かえば、思いがけず“赤”を被ってしまった。
(あーあ‥)
最悪だ。
日が暮れていた。
屯所の縁側で手拭いを首から下げ、ぼんやりと綺麗な夕陽を眺めると、我知らず鼻腔がツンとした。
夕陽はあんなに、綺麗なのに。綺麗な一日になる筈だったのに。どうして。どうして。どうして。
どうして、俺は──
溢れる気持ちを抑えきれなくて、持て余して、やるせなくて、悔しくて、俺は思い切り夕陽を睨んだ。
夕陽の沈む方向は、例の場所のある方向だ。
(‥もう、帰っちゃったよな‥)
思わず心の中で呟いて、気付く。今のは、間違いだ。瞬時に否定する自分がいた。
自分が待つ方の立場だったら──絶対に待つ。
何かあったのだろうか、大丈夫だろうか。杞憂だったなら、それでいい。その方がいい。──きっとそう思う。
そして、優しい薫ちゃんもそうするだろうことを 俺はもう知っていた。
気付いた時には、もう、走り出していた。
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