《第八輪》
やっと仕事が捌けて、逸る気持ちを前へ進む原動力に変えて、走る。
もうすっかり日常の一部になってしまった川沿いの道を軽い足取りで駆けた。
何度この高揚感を感じたか知れないけれど、何度感じても、ドキドキする。嬉しくて、胸が弾む。
(これを“幸せ”って言うんだろうな)
笑みが、零れた。
到着。
そして、約束の刻限に大分遅れてしまったことに今更気付く。
待たせてしまった、と焦って辺りを見回し 姿を探そうとする。けれど。
(居な‥い?)
藤堂さんの姿はなかった。
「‥‥帰っちゃった、かな」
思わず言葉に出して、気付く。今のは、間違いだ。瞬時に否定する自分がいた。
私が待つ方の立場だったら──絶対に待つ。
何かあったのだろうか、大丈夫だろうか。杞憂だったなら、それでいい。その方がいい。──きっとそう思う。
そして、優しい藤堂さんもそうするだろうことを 私はもう知っていた。
自分が考えたことに今更ながら照れて、顔が火照るのを感じ、頬を軽く叩いた。
(「‥よしっ、待とう!」)
美しく育った“純”の隣に腰を下ろすと、長丁場にも耐えられるよう 楽な体勢をとって臨んだ。
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