《第七輪》
掴んだ手のひらが熱い。
走っているからだとか、興奮しているからだとか、理由を付けることは簡単だけど── それで片付けたくない、この気持ちは。
君の手を引き、心臓がバカに煩いのを感じる。──嗚呼、今が愛おしい、と 感じるんだ。
(「でも今は、急げ‥!!」)
あともう少しで、“奇跡”が──
「着いた!!」
“花畑”に辿り着いて、二人息を調える。俺の瞳は一足先に“あるもの”を捉えて、心の中で「よしっ」と叫ぶ。
「見せたいものって? 藤堂さん」
「うん。ちょっとそこに座ってくれるかな」
それで、目を瞑って。と指示すると、薫ちゃんは戸惑いながらも従ってくれた。
薫ちゃんが目を瞑ったのを確認すると、俺は薫ちゃんの隣に腰掛けた。そして、少しだけ上を向かせる。
「はいっ目を開けて!」
ゆっくりと瞼を上げると、彼女の瞳に飛び込んできたのは、きっと“奇跡”だっただろう。
彼女が息を飲むのが聞こえた。
「っ‥‥!」
満天の、夜空。何百何千何万の輝く灯火が浮かぶその空間。数十年に一度訪れるという、奇跡。
常に其処に在り続けていた星々が、全てを忘れて流れる。流れ落ちてくる。
なんて、美しい。
「すご‥い」
隣で呟く彼女の声が、微かに震えた。
「凄い‥!」
頬を紅潮させて、君は呟く。いつの間にか繋がれていた手のひらを 握る力が強くなった。
君の笑顔が嬉しくて、俺も確かに手のひらを握り返した。
「そうだ!願い事!」
慌ててそう声をあげると、薫ちゃんは一層空を食い入るように見て、一瞬 瞳を閉じた。
俺も、流星を探し 瞳を閉じた。
(『 』)
迷うことなく挙げられた願い事が、少しだけ誇らしかった。
「何をお願いしたんですか?」
「秘密~」
「えーっ」
薫ちゃんが教えてくれるなら言うよ、と笑いかけると、じゃあいいです、と笑って断られた。
「声に出したら効果無くなっちゃいそうですしね」
「そうそう」
そう言って笑い合って、もう一度夜空に視線を移した。
いくつも流れ落ちる、星々。空から零れ落ちているみたいだ。
「‥綺麗」
薫ちゃんが、改めて呟く。
その笑顔が、繋いでいる手のひらが、今という時が、この空間がこの世界が、愛おしくて。今、確かに繋いでいる手のひらに力を込めると、少しだけ、瞳を閉じた。
『薫ちゃんが幸せで在りますように』
『藤堂さんが幸せで在りますように』
『そして願わくば』
『そして願わくば』
『『自分も、その隣で』』
――――
甘い幸せな一時を、彼らに。
――――