《第七輪》



 息も吐かせぬ攻防。
 でも、なかなかお菊さんの城壁は高かったけど、やっぱり若さからか、持久勝負なら俺も負けていない!(なんて言ったら殴られるだろうから言わないけど!)

 あと一押しだ、と思い何か決め手となる言葉を言おうとした‥その時だった。お菊さんが長く息を吐いて、チラリとこちらを見遣ったのだ。


「‥本当に約束できるか」

「! もちろんだよ!この‥」


 刀に懸けて。

 言おうとして、飲み込んだ。



 それじゃあ駄目だと思ったんだ。
 ドクン。心臓を鷲掴みされたような感覚が襲う。

 最も確固たる“武士の魂”は、彼女との約束を結ぶ証としては、最も不確かだった。

(自分で選んだ道なのに。)


 胸が、詰まった。




『私の父は志を通して死にました』



 つい先日聞いた 薫ちゃんの震えた声が耳の奥で響いた。





「俺、は‥」


 薫ちゃんを守れるだろうか。それ以前に、薫ちゃんを悲しませないと断言できるだろうか。
 彼女を置いていかないと約束できるだろうか。彼女との約束を守れるだろうか。

 彼女の笑顔を守れるだろうか。


 逆巻く自問に息が詰まる。
(答えられない俺がいるから)

 途端に、頭に衝撃が走った。


「馬鹿もん」

「痛い!」


 衝撃の要因はお菊さんの鉄拳だった。さっきの比にならないほどの痛みに、思わず頭を抱えてうずくまる。


「悩み込むんじゃない!」

「えっ、だってさ‥!」


 大切な事じゃん。言おうとして、言葉を遮られた。


「男なら自分の決めた事に責任を持て。省みるばかりじゃなく未来の為に何が出来るか考えろ。」


 この馬鹿もんが。呆れたようにお菊さんは言い捨てた。



「‥‥」

「返事せんかい馬鹿もん!」

「‥‥ねぇお菊さん」

「なんじゃい!?」


 俺はしゃがみ込んだ体勢から、お菊さんを見上げた。


「格好いい。素敵。お菊さん」


 流石、薫ちゃんのお祖母ちゃん。言葉の強さは遺伝かな、なんてつもりで言ったのに、『一昨日来やがれ』、の鉄拳を喰らう羽目になった。





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