《第七輪》



この世界の中で

一生の内に
見ておくべきものは
どれだけあるのだろう


この世界の中で

君の隣で
君と一緒に見たいものは

無限にあると答えられるけれど








《花、時々キミ/第七輪》







 門限、酉の刻。
 俺達を阻む大きな壁。


「いいじゃんいいじゃんバアちゃん!」

「お菊さんとお呼び!!」

「痛い!」


 つい口をついて出た軽口に反応したしわくちゃババ‥‥店主のお菊さんが、云十年かけて培った鉄拳を俺の頭に落とした。


「じゃあ“お菊さん”! いいでしょ!?」

「駄目じゃ馬鹿もん!!」

「何でさ!!」


 さっきからかれこれ半刻ほど言い合っているけれど、一向に妥協案が生まれる気配も見られない。


「だーかーら! 俺がちゃんと店まで送りにくるから大丈夫だって言ってるじゃん!」

「駄目じゃ駄目じゃ。この狼男」


 それは“嘘つき”っていう意味ですか。それとも“豹変する”っていう意味ですか‥!!
 無意味に頭を捻っていると、(天使のような)彼女の声が俺を後押しした。


「ま、まぁまぁおばあちゃん。藤堂さんなら誠実だし、もっと信用‥」

「駄・目・じゃ」


 なんてことだ。天使の声すらこの魔王の耳には届かないというのか‥!

 いよいよ最終兵器も尽きて、成す術が無くなりガックリうなだれる。


「夜間外出の理由も教えん奴のどこが誠実じゃ!」


 どうせ言っても許可してくれないくせに。言葉にはせずに目でジッと訴えていると、千里眼で見抜かれたのかまた鉄拳を喰らいそうになる。


「わゎわ待って待って!」

「じゃあ言え!」


 俺が慌てて頭を手で守ると、お菊さんは顎をクイっと動かして先を促した。
 ‥けれど、


「ごめん、無理」

「たわけ!!」


 どこが“誠実”じゃ薫!! と薫ちゃんに向かって言うと、薫ちゃんは苦笑した。


「だって言っちゃったらびっくりさせられないじゃん感動薄れるじゃん!」

「隠し事する奴に夜間外出認めるか馬鹿たれ!」


 どうしよう、いたちごっこ!





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